「それから、これも神殿近衛兵から聞いたんだが・・・」
テオは今までとぼけていたことを謝罪する覚悟で打ち明けた。
「警備兵にあの石を渡したのは、アスマ神官だった。 神官は警備兵に『近いうちに必要になるから持っているように』と言ったそうだ。」
少佐が咎めるように見たので、テオは急いで釈明した。
「君には言うつもりだった。君から部下達に伝えてもらえたら、と思ったんだ。夕食の後で言うつもりでいたら、カルロが来て、俺は彼の話の方に気を取られてしまって・・・」
「わかりました。」
少佐がツンツンして言った。
「遺伝子の話が出ると貴方はそっちへ向いてしまいますからね。」
ギャラガがクスッと笑ったが、少佐が視線を向けたので、慌てて下を見た。
テオは先を続けろと言いたげなアスルとロホの視線を感じた。
「俺に毒の出所を調べて欲しいと依頼した神殿近衛兵は、毒を盛った人物とアスマ神官は別人だと考えているようだ。アスマ神官は同僚の誰かが何かをしでかすと予想して、偶々手に入った”サンキフエラの心臓”が必要になると考えたのだろう。」
「すると・・・」
少佐はさっき彼に腹を立てたことを忘れたかの様に言った。
「大神官代理がお体を悪くされた。ある神官が彼の後継者を探すことを提案したが、その提案に気が乗らない神官が偶然手に入った”サンキフエラの心臓”で神官代理の病を治そうとした。しかし、あの石は一族には効かない。それを知らなかった神官は石の真贋を確認するために、大統領府厨房スタッフに毒を盛った?」
デネロスが首を傾げた。
「つまり、神官の間で権力闘争が起きているってことですかぁ?」
「そうだろうけど・・・」
とアスルが口を開いた。
「こう言うことも考えられませんか? 石を宝物庫に入れなかったアスマ神官は、大神官代理を交代させる派で、反対派が新しく採用される大神官代理候補に毒を盛ることを恐れて石を所持していた。すると反対派がアスマ神官とその仲間を牽制するために、厨房スタッフに毒を盛って脅かした・・・」
「アスマ神官が毒消の力を持つ石を持っているとは知らずに?」
テオが口を挟むと、今度はギャラガが言った。
「逆じゃないですか? アスマ神官派が毒を盛って、石で厨房スタッフを回復させたのでは? 反対派に、もし新しい大神官代理に毒を盛っても無駄だ、石で助けられる、とデモンストレーションして見せたのでは?」
何だか嫌な話だった。
「神殿のことに在野の我々は口を出せませんが・・・」
とロホが言った。
「端っこの方とは言え、我々は関わってしまっています。それに上の権力闘争はいずれ我々にも火の粉が降り掛かってくるでしょう。今のうちに小火を消してしまいたいです。」
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