「神官達は、自分達が幼い頃に親から離されて修行してきたから、子供を親から取り上げることを残酷だと思っていないんだ。」
とアスルが呟いた。神殿のシステム批判になりそうだったので、テオは話題の方向を変えようとした。
「ところで、警備兵に”サンキフエラの心臓”を渡した神官が誰かわかったのかい?」
「わかっても、俺たちに教えてくれやしないさ。」
とアスル。だけど、とテオは粘った。
「宝物庫は神官一人で開けることは出来ないんだろ? 神殿近衛兵立ち合いでなけりゃ、どの神官も開けられないって・・・」
するとロホが遮った。
「どうして貴方がそんなことをご存知なのです?」
彼はチラッと上官を見た。ケツァル少佐は、私は言ってないわ、と言いたげに首を振った。テオはうっかり口を滑らせたことを悔やんだ。しかし、さっき仲間達は他言無用の筈の情報を交換し合ったのだ。彼は腹を括った。
「実は、ある神殿近衛兵が俺に接触して来た。」
え?と仲間達。少佐が「聞いてませんよ」とむくれた。何でも話してくれる間柄ではないのか、と文句を言いたげだったが、彼女だってテオによく秘密を持っているのだ、おあいこではないか、とテオは思った。
「その神殿近衛兵は、俺に毒を盛られた大統領府厨房スタッフの吐瀉物のサンプルをくれて、毒物の素性を割り出して欲しいと依頼して来たんだ。つまり、植物性の毒だとわかったので、その植物がどこで採取されるものか知りたかったんだ。毒を盛った神官を割り出そうとしたんだろうな。」
「神殿近衛兵が神官を疑っているのか?」
「その毒の正体はわかったんですか?」
「植物って、何です?」
ロホとアスルとギャラガが同時に質問した。テオは両手を前に出して、まぁまぁと彼等を抑えた。
「一度に質問するなよ。順番に話すから。」
彼は出来るだけロホを見ないように努めた。その神殿近衛兵が彼の兄貴だなんて知られたら、マレンカ家で何か騒動になるかも知れない。
「神殿近衛兵は、彼等が立ち会わなかったのに宝物庫が開かれたことで、神官に不審を抱いた。どの神官が掟を破ったのか、毒の出所を探ることで割り出そうと考えたらしい。だから俺は渡された汚物を分析して、カロライナジャスミンが使われたことを知った。その植物が生えている場所を検索して、植物園に行った。そこでは手がかりがなかったが、民間で毒物を扱っているところはないかと思い、カダイ師の薬屋を思い出した。」
ああ、とデネロス少尉が声を立てた。彼女はテオの通訳を務めた時のことを思い出したのだ。テオは彼女に頷いて見せた。
「カダイ師は何者かに記憶を抜かれていたが、記憶を抜かれたことに気がついており、カロライナジャスミンの毒であるスンスハンの粉の在庫が減っていることにも気がついていた。ただ、レジの金が増えていたので、泥棒ではないと思い、どこにも通報しなかった。犯人は”ヴェルデ・シエロ”だと彼は考えたからだ。 これは、俺がマハルダの協力で得た情報だ。」
そして、彼はさらに重要な情報を明かした。
「少佐は”サンキフエラの心臓”をアスマと言う神官に預けた。」
少佐が頷いた。テオは神殿近衛兵から聞いた事実を語った。
「神殿近衛兵は誰もアスマ神官があの石を宝物庫に納めるのに立ち会っていない。つまり、神官は宝物庫を開いていないんだ。」
「つまり?」
少佐が険しい表情になった。
「アスマ神官は自分であの石をそのまま持っていたと言うことですか?」
「スィ、神殿近衛兵はそう推理していた。」
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