2024/10/04

第11部  太古の血族       4

 アンヘレス・シメネスと別れた後、アンドレ・ギャラガ少尉は考古学部のケサダ教授の研究室へ急いだ。スクーリングの授業が終わったら、職場へ戻らなければならないが、ケツァル少佐から教授への伝言を預かっていた。任務の一つだから、怠る訳にいかない。ケサダ教授は彼の主任担当教官ではないが、いくつか授業を履修しているので、ギャラガが教授に会いに行っても誰も不思議だとは思わない。
 ドアが視野に入ると、ギャラガは故意に小さく気を放って、己の訪問を教授に知らせた。普段そんなことをしないので、教授は奇異に感じて会ってくれるだろう。
 果たして、彼がドアの前に来ると、先にドアが開いてケサダ教授が出て来た。

「こんにちは」

と挨拶して、ギャラガは相手の目を見た。目下の者から”心話”を要求するのは失礼だが、彼は時間をかけたくなかった。他の学生や職員に、ただ2人はすれ違っただけ、と思わせたかった。教授はちょっと驚いた様子だったが、すぐに彼の”心話”を受け入れた。

ーー神殿が、グラダを先祖に持つ5歳未満の男児を探し始めました。大神官を養育するつもりの様です。

 伝えるのはそれだけだ。教授は黙って頷いた。ギャラガの情報を理解したと言う合図だ。ギャラガは立ち止まらずに部屋の前を通り過ぎた。ドアの隙間から数人の学生が教授の研究室内にいるのが、チラリと見えた。
 ケサダ教授がわざとらしくギャラガに声をかけた。

「アンドレ、ムリリョ博士は部屋へお戻りか?」

 ギャラガは礼儀として立ち止まって振り返った。

「戻られたと思います。私は少し人と話をしていたので・・・」

 また目が合った。教授の”声”が聞こえた。

ーー夜間自宅に結界を張る。訪問する時は前もって連絡しなさい。

 グラダ族の結界は強力だ。普通の人間には効力がないが、 ”ヴェルデ・シエロ”同士には有効な壁となる。無理に破ろうとすれば脳をやられる。
 ギャラガは軽く黙礼して、その場を立ち去った。 

0 件のコメント:

第11部  太古の血族       28

  静かに姿を現した人物は若い女性だった。ジャングルに溶け込むような色の軍服の様な物を着用し、手には銃器ではなく、驚いたことに短槍を持っていた。腰のベルトには拳銃、とデネロスは見て採った。  ケツァル少佐が尋ねた。 「先刻の声は貴女ですか?」 「スィ」 と女性がニコリともせずに答...