2024/11/20

第11部  太古の血族       18

  テイサが姿を消すと、サカリアスがテオに話しかけてきた。

「ウイノカは貴方に毒の遺伝子検査を依頼したと言っていましたが、それが今回の出来事にどう影響すると思われますか?」

 ロホが黙っているので、テオはちょっと困惑した。ウイノカ・マレンカの依頼は彼とテオの間の秘密だった筈だ。しかしウイノカはどこかでサカリアスにそれを打ち明け、サカリアスは今”心話”でロホに伝えたのだ。
 テオは正直に言った。

「俺は部外者だし、神殿内の権力闘争とかに関係したくないと思っています。毒の成分の由来を調べましたが、それが毒を使った人間の特定に役立つとも思えませんでした。ウイノカがもし毒を使った人を特定したとして、彼はそれからどうするつもりだったのでしょう。犯人を告発するつもりだったのでしょうか。」
「ウイノカは、厨房スタッフを危険な目に遭わせた人間を許せなかっただけですよ。」

とロホが腹立たしげに言った。長兄とテオの会話に割り込むのは、礼儀作法に外れるのだが、サカリアスは怒らなかった。彼は弟をちょっと横目で見ただけで、視線をすぐにテオに戻した。

「ウイノカが神殿と大統領府で起きたことを私に伝えたのは、厨房の毒事件の3日後でした。神官達がエダの神殿に出かけている間の事件だったので、私は神殿の秩序を守る対処法を訊かれるのだと思い、彼と神殿の外部庭園で会いました。」

 神殿の外部庭園とは、どこだろう、とテオは思ったが、黙っていた。ロホが不審そうに尋ねた。

「先ほども”心話”でそれを知りましたが、外部庭園は神殿近衛兵しか入れませんよね?」
「ウイノカがこっそり入れてくれたのさ。」

 長兄はけろりと答えた。そのウイノカが神殿近衛兵だったことは、既にロホに”心話”で伝わっているようだ。ロホが憂い顔になった。

「兄さん達は掟を破りっぱなしですよ。」


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第11部  太古の血族       18

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