テオとロホはグラダ大学医学部付属病院の駐車場に到着した。ロホが鼻をひくつかせた。
「病院の臭いって、本当に嫌です。」
と彼が呟いた。
「昔はそうでもなかったのですが、肩の手術を受けてから、どうしてもあの時のことを思い出してしまって・・・」
彼が何を言っているのか、テオはすぐに悟った。ロホは反政府ゲリラに誘拐されたテオを救出に行って、ゲリラの親玉に肩をナイフで刺されたのだ。親玉は”出来損ない”の”ヴェルデ・シエロ”で、一族の扱い方を心得ていた。ロホがジャガーに変身して逃げないように、肩の関節辺りを深く刺して、体を変化させられないようにしたのだ。ロホはもう少しで左腕を失うところだった。テオ、ケツァル少佐、ステファン大尉が力を合わせて彼を救出し、少佐の応急処置でロホは助かった。今は、すっかり回復して「記念に」傷跡を残す程度だが、やはり当時の記憶は嫌なものなのだ。
「今日は君の診察じゃないから、気にするなよ。」
としかテオは言えなかった。忘れてしまえ、なんて言えない。ロホの負傷はテオを救出した時の代償だったのだから。
2人は車から降りて、病院の正面玄関から入った。付属病院はセルバ共和国で最高の医療技術と最新の医療設備を備え、最高の腕を持つスタッフが働いているが、料金が安いのでいつもショッピングモールの様に賑わっていた。少なくとも、外来のスペースは、混雑していた。
よく知った場所をテオはロホを先導して歩いて行き、入院病棟の受付へ辿り着いた。名前は覚えていないが、顔は見知っている女性スタッフに声をかけ、ロアン・マレンカと言う人物が入院していないかと尋ねた。個人情報だったが、テオが大学の職員で、医学部でも彼に色々頼ることが多かったので、あっさり要求は受け入れられた。スタッフはパソコンで検索した。
「セニョール・マレンカは緩和ケア病棟の3階3号室です。」
緩和ケア病棟、と聞いて、ロホが眉を上げた。大神官代理はもう余命何もないのではないか?
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