2025/01/10

第11部  太古の血族       31

  ケツァル少佐が「対立」と言う言葉を口に出すと、神殿近衛兵達がサッと緊張するのがデネロス少尉にはわかった。近衛兵達も神殿内の不穏な雰囲気を気にしていたのだ。

「何か情報を得て来られたのですね?」

とキロス中尉が用心深く尋ねた。デネロスは黙して上官に一任した。少佐が近衛兵達を見回した。

「大神官代理ロアン・マレンカ殿はお体の具合が良くないと聞いています。」

 反応がなかった。彼女達は知っていたのだ。少佐は続けた。

「ある隊員が、大神官代理候補となり得る男の子供を探し出すよう命令を受けました。」

 これには、反応があった。数人が互いの顔を見合わせ、キロス中尉も表情を強ばらせた。

「それは、マレンカ様が危ないと言う意味ですね?」

 遠回しではなく、ズバリと訊いてきた。少佐は頷いた。

「スィ。私はどの様なご病気なのか、聞いていませんが、神殿で療養なさっておられないのでしたら、ご実家に下がられたか、どこかの医療施設に入られたのだと思います。」

 キロス中尉は部下達を見てから、少佐に視線を戻した。

「一月前、神殿から御用車が出ました。普通の乗用車で、神官の何方かが私用で使われたのだと思っていましたが、恐らくそれに大神官代理様が乗っておられたのでしょう。と言うのも、それ以降、我々は大神官代理のお姿をお見かけしなくなったからです。」
「しかし、何故少佐が大神官代理の交代に口出しされるのですか?」

と尋ねたのは、セデス少尉と紹介された兵士だった。少佐は隠さずに言った。

「子供を探す命を受けた隊員はある条件を与えられています。祖先にグラダの血を受け継ぐ者、と言う条件です。」

 ザワッと声が聞こえた、とデネロスは感じた。実際は誰も声を発していなかったが、全員がちょっと驚いたのだ。

「神官に選ばれる子供は、親の承諾の下、純血種で能力の強い健康な子供、と定められていますが、部族の特定はありません。しかも先祖にグラダがいるなんて・・・」

 キロス中尉が少し困惑していた。

「どうやって調べるのです?」
「それは私も知りません。」

 少佐はさらに言った。

「私がここに来た理由は、その条件が神官全員の意見なのかどうかお聞きしたいと思っているからです。」

 ああ・・・とマリア・アクサ少尉が囁く様に発言した。

「だから、神殿内で対立が起きているのですね?」

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