「対立の内容を貴方は知っているのか、マリア?」
とキロス中尉が尋ねた。マリア・アクサ中尉は神殿をチラリと見てから、上官に向き直った。
「噂話ですが、報告してよろしいでしょうか?」
中尉がケツァル少佐を見たので、少佐が「良い」と答えた。それで、マリア・アクサ中尉は「女官から聞いた話です。」と断りを入れてから語った。
「神官の間で、後継者の決め方を変えようと言う意見が出ているそうです。今までは神官に欠員が出た場合に、神殿が一族の中で修行を始めるのに適した年齢の子供を探し出し、親を説得して・・・こんな言い方は失礼でしょうが、殆ど誘拐同然に・・・神殿に連れて来て教育していました。しかし世代を重ねるごとに一族の人口は減少しています。純血種が減っていると言った方が正しいでしょう。ですから、これからは能力が高ければ混血の子供でも良いのではないか、と言う意見が出ました。」
「混血では”名を秘めた女の人”の声が聞こえない!」
と口を挟んだのはカタリナ・アクサの方だ。しかしキロス中尉に「黙れ」と注意されて、口を閉じた。マリアは中尉から目で促され、話を続けた。
「カタリナが言った理由で反対する神官が多かったのですが、その反対者の中でもさらに意見が割れました。新しい神官は現在いる神官の子供から選べばどうか、と言う意見です。」
すると今度は副官のトーコ少尉が目を丸くして抗議した。
「それでは世襲になる。世襲は古代から禁止されている筈だ!」
「マリアに抗議してどうなる?」
とキロス中尉が彼女を宥めた。ケツァル少佐がまとめようとした。
「つまり、今、エダの神殿の中では、混血の神官でも良いと言う者と、神官を世襲制度にしようと言う者と、それに反対する者がいると言うことですか。」
マリア・アクサ少尉が「スィ」と答えた。するとデネロス少尉が首を傾げた。
「そうなると、グラダを祖先に持つ子供を探せと言う者は、混血の神官にも世襲にも反対の人の中にいる訳ですか?」
「神官達それぞれの思惑があって意見がバラバラなのでしょう。」
とキロス中尉が苦々しげに神殿を見た。
「いずれにせよ、長老会を無視して神官だけで制度を変えると言うのはとんでもないことです。」
「だから貴女達を締め出しているのです。」
ケツァル少佐は神殿を睨んだ。
「私が結界を破って中に入ると不敬罪になるのでしょうね。」
「長老会を無視する方が不敬罪です。」
キロス中尉も部下達も怒っていた。少佐はちょっと考えてから、仲間を振り返った。
「ご存知かと思いますが、私は罪人の子供として生まれました。親は二人共反逆者と呼ばれました。ですから、私が不敬を成しても、やはりあの男女の子供だ、と思われるだけでしょう。貴女達は私を捕まえようと追いかけて神殿に戻った、そう言うことにしませんか?」
彼女の提案にびっくりしている神殿近衛兵達を横目で見て、それからデネロスが笑った。
「流石、我等が文化保護担当部の指揮官殿です!」
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