例によって、エダの神殿の内部で実際に何が起きていたのか、神官からの説明はなかった。ただ9人の神官は、捕縛されている3人の神官が世襲制採用を唱え、他の神官と対立したこと、大神官代理の病に何らかの関係があること、グラダ族の血を引く子孫を探せと言う案が実は3人の神官の親族の子供を神官に据えるための方便であったと近衛兵と文化保護担当部の隊員に教えてくれた。
「彼等自身は子を成せない。神官は子供の時に選ばれ一生独身で終わる。しかし親族から新たな神官が出れば、己の権力を維持出来る。」
「独身だったら世襲制は絶対不可能でしょう?」
とデネロス少尉はいつもながら大胆に発言した。神官の話を遮るなど、最低の非礼なのだが、ケツァル少佐は容認した。話を遮られたマスケゴ族の神官がムッとした顔になったが、女性達は誰もデネロスの発言を咎めなかった。彼女は正論を言ったのだ。神官は結婚も事実婚も出来ない、それが古代からの伝統でしきたりだった。
「確かに、世襲制は無理だ、今のしきたりではな・・・」
マスケゴ族の神官は溜め息をついた。
「権力を握るとしきたりを変えられると考えたのだ、彼等は・・・」
超能力の使用を不能にする「抑制タバコ」を吸わされて意識朦朧としている3人の神官を他の神官達が運ぶ準備をしていた。近衛兵は手伝わない。彼女達の任務は警護で雑用ではない。
「”入り口”が近くに現れるのが、1時間後だ。」
とスワレ神官が言った。 空間通路の入り口のことだ。普通は出現している”入り口”を探して使うのだが、神官ともなると空間の歪みの動きを計算し、”入り口”や”出口”の出現を読み解ける。これは神官以外の修行をしていない人間には不可能なことだ。
「”入り口”がグラダ・シティの神殿に繋がる時間はそれほど長くない。我々は眠らせた3人を連れて神殿に戻るが、近衛兵の半分は別通路で戻ってもらわなくてはならない。文化保護担当部も申し訳ないが・・・」
「お気遣いなく。」
と少佐は言った。キロス中尉も、そんなことは承知していると頷いた。
「後発の人員は決めておきます。神官様達は出発までお休みください。今まで強いストレスのもとでいらしたのでしょう。」
女性の心配りに、スワレ神官は頭を下げた。
「かたじけない。我々は普段近衛兵と口をきくことも少ない。話す相手はもっぱら男の近衛兵ばかりで、君達は遠い存在だった。これからは、君達のことも頼りにしていこう。」
「どうしてここへ女性ばかり連れて来たのですか?」
と、またデネロス少尉が尋ねた。するとグワマナ族の神官が答えた。
「破廉恥な理由だ。あの3人は自分達の子供を作りたかった、とだけ答えておく。」
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