「弱い呪いは、指導師の資格を持つ者であれば祓える。しかし、死に至る呪いは、かけた本人でなければ解けないと言われている。」
テオはムリリョ博士が何を言いたいのか、ぼんやりと理解した。ロホの親族に、他人がかけた死に至る最悪な呪いを緩和させる力を持つ人がいるのだ。テオはその人と会ったことがないし、名前も知らないが、その人が頭部を”ヴェルデ・シエロ”の爆裂波で損傷した一般人を救った話を最近聞いた。
「博士は大神官代理の病を治したいと仰るのですか?」
テオはムリリョ博士が他人に口を挟まれるのを嫌うことを承知で尋ねた。
「大神官代理は末期の膵臓癌だと聞きましたが・・・」
すると、やはり思ったことをアスルが口に出した。
「癌ではなく、爆裂波の傷なのですか?」
ムリリョ博士は2人を交互に見た。その目は怒っていたが、若者達の不作法を怒っているのではなかった。
「おう、それよ! 白人の医療では癌としか言いようがなかっただろうが、ロアン・マレンカが膵臓を傷つけられ、機能不全になってしまったのは、カエンシットの大馬鹿者の仕業だ!」
ギャラガが大きく息を吐いた。
「それは、大罪です! 一族への叛逆ですよ、博士!」
「左様、叛逆だ。」
ムリリョ博士はロホに向き直った。
「本来なら、これは長老会の中で話し合われ、外部には漏らさぬ次元の事案だ。カエンシット、アスマ、エロワの3人は叛逆者として処分されねばならない。しかし、あの者達に大神官代理にかけた呪いを解かせる訳にはいかぬ。さらに暴走する恐れがあるからな。」
「それで、私の叔父に大神官代理の治療を依頼したいと?」
この「叔父」は親族の目上の男性と言う意味だ。ロホの両親の兄弟ではない。
ムリリョ博士は頷いた。
「長老会の総意だ。最初に世襲制の考えを口にした長老は深く反省し、引退する前に大神官代理が快復することを願っている。」
「叔父に連絡を取ってみます。」
とロホは少し自信なさそうに言った。必ずしも彼の叔父が大神官代理を救えると確約出来ないのだ。
アスルが博士に質問した。
「3人の叛逆者は捕まえてあるのですね?」
「勿論だ。」
博士はムッツリした顔で答えた。
「神殿近衛兵の女性部隊がとっ捕まえた。お前達の指揮官とブーカの小娘も一緒だ。こんな時は・・・」
彼はボソッと言った。
「男の近衛兵共はあれやこれや思案が多くて動くのが遅いことよ・・・」
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