「ええっと・・・どこから話しましょうか・・・」
テオは考えた。目の前の女性が何者なのかわからないが、敵ではないだろうと言う意識はあった。それで、自己紹介から始めた。
「俺はテオドール・アルスト・ゴンザレスと言います。 グラダ大学で教員として働いています。俺のパートナーは大統領警護隊のシータ・ケツァル・ミゲール少佐です。」
女性は黙って彼の顔を見ていたが、怒っている様でも警戒している様でもなかった。穏やかに静かに彼を見ていた。テオは続けた。
「神殿の神官の中に問題を起こした人がいて、少佐は神殿近衛兵の女性達と神殿に出かけました。俺は自宅で留守番をしていましたが、大学の同僚のフィデル・ケサダ教授と話をして、少佐が把握している問題を起こした神官に仲間がいることがわかったので、彼女に教えたいと思いました。教授が彼の家に帰るために”入り口”に入りかけたので、神殿への連絡方法を聞こうと駆け寄ったら、いきなりここへ来てしまいました。」
笑い声が起きて、テオはびっくりした。目の前の女性が可笑そうに声を出して笑っていた。
「まぁ、閉じる”入り口”に吸い込まれてしまったのですね! そして先導者なしのままに、最後に思った場所へ跳んでしまったのです。白人の身で、大したものです!」
そう言うことか・・・テオは昔カルロ・ステファン大尉が北部のラス・ラグナス遺跡で”入り口”にうっかり手を突っ込んで吸い込まれた事故を思い出した。
「白人の俺が跳んでしまうなんて、想像もしませんでした。」
「タイミングが良かったのでしょう。少しでもズレていたら、貴方は永久に暗闇の中を彷徨い続けるところでした。」
そう言われて、ゾッとした。出来れば教授の自宅に跳んだ方が良かったかも知れない。すると、女性が言った。
「その教授は自分で”通路”をコントロールしていたのですね。力が強いので、白人の貴方を巻き込んでしまう空間の渦を作ってしまったのでしょう。そんなことが出来るのは・・・」
彼女は何かを口の中で呟いたが、テオには聞き取れなかった。
女性は彼に再びニッコリ笑いかけた。
「少佐のところへ行きたいですか?」
「スィ。道を教えていただければ・・・」
「白人に一人で神殿内を歩かせることは出来ません。私が行ける所まで案内しましょう。」
「グラシャス。ところで、貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
すると彼女はなんでもないように答えた。
「名はありません。 少なくとも、他人に教える名前はないのです。」
テオは心の中で叫んだ。
げっ! ママコナだ!!!!!
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