「待って!」
テオは空中に消えて行くケサダ教授に駆け寄った。神殿にいるケツァル少佐にすぐに連絡をつけたかった。夢中で教授に向かって手を差し出し・・・
いきなり両足が宙に浮いた感触があった。
え?!
次の瞬間、彼の体は冷たく固い物に叩きつけられた。幸い頭部を打たなかったが、暫く体がショックで動かなかった。
なんだ?
ケサダ教授に衝撃波をくらって突き飛ばされたのかと思った。だが顔を上げると、そこは初めて見る風景だった。暗い空間、疎に松明の火が灯っている。壁は大きな石組みだ。彼は床に手をついて立ち上ろうとして、床も石畳だと気がついた。空気が冷たく、ブルッと身震いした時、背後から声をかけられた。
「お怪我はありませんでした?」
スペイン語だが、とても丁寧で、少し訛って聞こえた。テオは座り込んだまま、振り返った。暗がりの中に、ボウッと光る人形の様に、女性が立っていた。若い人で、年齢は20歳前後か? 純血種のインディオだ。マハルダ・デネロスをもう少し幼くした感じで、暗がりに溶けてしまいそうな茶色の服を着ていた。普通の裾が長いチュニックで、脚にスパッツを履いているようで、足はサンダルを履いていた。髪の毛は長いのかも知れないが、やや後ろでお団子に結っていた。
「あ・・・いきなり現れてすみません・・・」
とテオは謝った。
「驚かれたでしょう? 俺もここへ来るつもりはなくて・・・」
彼は重大な疑問を思い出した。
「ここはどこです?」
女性がクスッと笑った。
「貴方が最後に頭に思い浮かべた場所です。」
つまり”空間通路”の仕組みを知っているのだ。この女性は”ヴェルデ・シエロ”だ。テオはもう一度周囲を見回した。暗くてわからないが、かなり広い空間の中にいる気がした。
「まさかと思いますが・・・神殿ですか?」
「スィ。」
女性がニッコリした。すると、この女性は巫女の世話をしている女官なのか?
テオは相手を怯えさせないように、許可を求めた。
「立ち上がって良いですか?」
「スィ。」
テオはゆっくりと立ち上がった。空中から石畳の上に放り出された時に打撲したのか、お尻がちょっと痛かったが、他に怪我はなさそうだった。
「白人が立ち入ってはいけない場所に入ってしまいました。すぐ出て行きます。」
すると、女性が尋ねた。
「貴方は、どうやってここへ来たのですか? 白人が”通路”を通れると聞いたことはありませんが?」
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