ママコナは、大神官代理を救えるのは大統領警護隊文化保護担当部とテオだ、と断言した。テオは驚きのあまり口をあんぐり開けて、馬鹿みたいに立ち尽くした。ママコナが続けた。
「貴方と貴方のお友達は旧態のしきたりにあまり捉われません。それは古い体質から抜け出せない神官達には脅威なのです。しかし彼等はその脅威に気づいていませんでした。普段貴方達と接する機会がなかったからです。そして貴方達と親交を持つ長老は、わざわざ彼等に貴方方の能力を教えたりしない。」
ママコナはファルゴ・デ・ムリリョのことを言っているのだろう。沈黙を守ることは仲間を守ることだ。ムリリョは”砂の民”の部下達の話も家族の詳細も他人に明かしたりしない。彼の寡黙さは身内を守るためだ。
ママコナが前方の暗い通路の入り口を指差した。
「あちらに、貴方がご存知の人がいらっしゃいます。私は行動の範囲を制限されているので、この先へ行けません。あの人が貴方を安全に外へ出してくださるでしょう。貴方がここへこられた目的も聞いてくださると思います。」
彼女は壁に背をつける形でテオに道を譲った。テオは彼女の前を静かに通り抜けた。微かに甘い花の香りを嗅いだ気がした。
「俺が貴女とここで出会ったことは、口外しない方が良いでしょうね?」
「そうですね・・・」
ママコナは少し考える表情になった。
「貴方が弾みで神殿に入ってしまったことは、大統領警護隊に教えても良いですが、私と先ほどの会話をしたことは言わないでください。私の地位に関わる問題ですから。」
最後はちょっと笑っていた。気安く初対面の白人男性と言葉を交わす大巫女様、それは全セルバ国民から神聖な存在として敬われている彼女の沽券に関わるのだろう。
それでもテオは言いたかった。
「貴女とお話出来て楽しかったです。そして貴重な体験でした。貴女とまたお会いしたいですが、それは無理でしょうね?」
「無理ですね。」
あっさりママコナは答えた。
「貴方がジャガーなら、お話出来ますのに。」
テオには彼女の心の声が聞こえないのだ。彼は握手も許されない相手に、軽く頭を下げた。
「今回の騒動が早く収束して、出来るだけ平和に解決することを望みます。」
彼が言うと、彼女は頷いた。
「大丈夫です、貴方達がいますから。」
そして、彼女は「ご機嫌よう」と囁いて、彼に背を向け、大広間の来た道を歩いて去って行った。