「現在の神官達は、そんなに掟に縛られていないと思うよ。」
とサカリアスが言った。
「掟を重視するのは長老会だね。若い神官は長老の言いなりだ。だから大神官代理ロアン・マレンカは遠縁の甥になる神殿近衛兵ウイノカ・マレンカに彼の留守の間の出来事を逐次伝えるよう頼んだ。長老会が新しい大神官を立てる考えを持っていると知っているだからだ。」
「新しい大神官と言うのは、グラダの血を引く人と言うことですか?」
テオはまたうっかり他人の話の最中に口を挟んでしまった。サカリアスは怒らなかった。
「スィ、長老会はアンドレ・ギャラガ少尉が白人の血を引いているにも関わらず、グラダの能力を保っていることに驚愕し、他にも同様の能力者がどこかに潜在しているのではないか、と考えた。それで一番長老会と親しいアスマ神官にグラダの子孫を探すよう勧めた。長老会が神官に命令することは出来ないが、進言は出来るからね。だが神官の多くは、ミックスのグラダ、過去の事例において災難をもたらした男の事例を思い出し、その考えに難色を示した。グラダ族の力が暴走すると誰にも止められない。それに大神官に異人種の血が入る者を据えることも許したくない。だから、今神官達は二つの派閥に分かれてしまっている。長老会に従う派と反対派だ。」
「アスマ神官は大統領警護隊遊撃班の若い隊員に、グラダの子孫探しを命じました。はっきり言って、無理です。一族全員の遺伝子検査が必要でしょう?」
とロホはテオを見て言った。サカリアスは苦笑した。
「私は、長老会には誰か心当たりがいるのだと思うよ。アスマ神官には教えないだけで。そして、グラダの力が暴走した時の制御能力がある人間にも心当たりがあるのだろう。」
テオはもう少しで「あっ!」と声を上げそうになった。我慢したが、微かな心の動揺を”ヴェルデ・シエロ”の兄弟は見逃さなかった。
サカリアスがテオを見つめ、ズバリ質問した。
「貴方は、長老会が誰に目星を付けているのか、お分かりなのですね?」