2025/05/09

第11部  神殿        21

 「マスケゴ族の神官クワロワは、己の隠し子を大神官代理にしたいと考えました。でも、もし他にグラダの子孫が現れると、彼の思惑が外れてしまいます。だから彼は大統領警護隊遊撃班の若い少尉に、グラダの血を引く幼児を探せと命じました。」
「見つけ次第消すつもりだったのか?」
「スィ。」

 テオはゾッとした。クワロワやアスマの仲間は、己達の血族を神官にする世襲制を画策し、邪魔なマレンカ大神官代理に呪いをかけて瀕死の状態に追い込み、自分達が大神官代理候補に立てようとする幼児のライバルが出て来ないよう、グラダの子孫を狩ろうとしたのだ。

「その企みを、アスマ神官達は認めたのか?」
「神殿の裁判で嘘はつけません。被告は抑制タバコの煙で燻され、抵抗する力を奪われます。いかなる尋問にも嘘をついたりや沈黙することが不可能になるのです。」
「君はエダの神殿に行っていただろ? あそこでは何が起きていたんだい?」
「アスマ達が他の神官達を仲間に引き入れるか否か、試していたのです。大神官代理が重い病に倒れたので、次の大神官代理を決めなければならない、と神官達を誘い出し、閉じ込め、洗脳しようと試みていました。でもブーカやオクターリャの神官はなかなか言いなりになりません。彼等の悪巧みが気づかれそうになっていたので、反対派を殺害してしまうことを考えていた最中に、私とマハルダが女性近衛兵達と接触したのです。」
「女性近衛兵達は、世襲制に利用されようとしていたんだってな?」
「スィ。酷い話です。彼女達は真相を知ると憤っていました。近衛兵達は神殿の神聖さを守っているのに、世俗の汚い野望を持ち込まれて、それも神官自ら汚れを持ち込んだので、叛乱神官達の極刑を求めています。」
「アスマ達はワニの池に放り込まれるのか?」
「その判決は、私には教えられませんでした。」

 少佐は疲れた顔でボードをぼんやり眺めた。

「恐らく、我々はアスマ達に2度と会うことはないでしょう。」

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第11部  神殿        23

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