2021/06/23

風の刃 14

 オクタカス遺跡へ向かうトラックは5台、シオドアは先頭車両の荷台にリオッタ教授、シュライプマイヤーと陸軍兵士2名と共に乗った。教授は調査隊撤収の手伝いに行くのだ。兵士の1人はシオドアと顔馴染みになった男だが、この日は大人しかった。ロホが同じトラックの助手席にいて、周辺の景色を眺めていた。

「昨日、 救護の手伝いに来た村の人から、面白い話を聞きましたよ。」

といきなりリオッタ教授が喋り始めた。

「ベースキャンプと遺跡を挟んだ反対側のジャングルの中に、昔小さな村があったそうです。村の名前は・・・ええっと教えてくれたんですが、思い出せないな。兎に角、その村がね、今から50年近く前に、ある日忽然と消えてしまったそうです。」

 シオドアはそんな話を子供の時に聞いた様な気がした。兵士達が興味深そうに見たので、教授は気を良くした。

「47人、年寄りも子供も含めていつの間にかいなくなってしまって・・・」
「どこかに引っ越したんだろ?」

とシュライプマイヤー。教授は手を振って否定した。

「食事の支度や家事を途中で放り出して引っ越しですか? 有り得ない!」
「オエル・ベルディだ!」

 不意にシオドアと顔見知りの兵士が声を上げた。

「昔、ブラジルであった事件でしょ?」

 シオドアも頷いた。

「うん、俺も子供の時に本で読んだ。村人が大勢消えてしまったんだ。」
「S Fですか?」

とシュライプマイヤー。リオッタ教授は首を振った。

「そうじゃない、この遺跡の向こうに実際にあった村だ。」

 そして彼が村の名前を思い出した時、遺跡の入り口に到着した。シオドアは教授が「ボラーチョ」と呟くのを聞いたが、気に留めずにトラックから降りた。
 遺跡の入り口にステファン中尉がジープを駐めて待っていた。メサのキャンプを撤収したらしく、ジープの後部席は荷物でいっぱいだった。発掘調査が中止になったので、彼も帰るのだろう。トラックの助手席から出たロホが彼に近づいて行った。シオドアは2人の大統領警護隊文化保護担当部の中尉が互いに敬礼を交わし合い、それから皆んなに背中を向けるのを見ていた。何か話し合っていたが、そのうちロホが片腕をステファン中尉の背中に回し、自分の体に引き寄せた。内緒話をしているのか、それとも事故に遭って任務遂行が上手く果たせなかった同僚を励ましているのか。

「あの2人は仲が良いのですね。」

とシオドアはそばに来たリオッタ教授に話しかけた。教授が笑った。

「文化保護担当部の将校達は家族みたいに仲良しです。結束が固い。だから1人を怒らせると、全員を敵にする覚悟でいなければいけません。まぁ、一番とっつきやすいのが、マルティネス中尉ですがね。」

 ロホとステファンの両中尉が離れ、今度は並んで調査隊のメンバーの所にやって来た。ロホがマーベリック博士の代理リーダーとなったフランス人学者に言った。

「撤収の作業を始めてもらって結構です。出来れば今日の夕方迄にここを封鎖したい。ステファンと私は事故が起きた洞窟を調べます。ライトを貸してもらえますか。」

 本当はライトなんて必要ないんじゃないか、とシオドアは内心思った。ロホは暗がりで本を読めるし、ステファン中尉も前日はライトなしで洞窟内を歩いていた。
 こいつら、どこか変だ。ケツァル少佐も2人の中尉もアスルも・・・。
 考古学者達が遺跡に入り出したので、シオドアはロホに声をかけた。

「俺は君達と一緒に洞窟に入りたい。出土品の整理なんて、何をして良いかわからないし、昨日何が起きたのか確かめてみたいんだ。」

 ロホがステファンを振り返った。2人が目と目を見合わせた。数秒後にロホはシオドアに向き直り、O Kと言った。

「ライトをもう一つ借りましょう。そちらの人は・・・」

 シュライプマイヤーを見たので、シオドアはボディガードが何か言う前に素早く予防線を張った。

「ケビンは洞窟の入り口で待機だ。また何か起きたら、すぐに小隊長に知らせてくれ。」




1 件のコメント:

Jun Tacci aka ねこまんま さんのコメント...

大統領警護隊が普通の人間ではないと気がつくの、遅くないか、シオドア・・・

第11部  紅い水晶     19

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