洞窟を出たシオドア、ロホ、ステファン中尉は、シュライプマイヤーも加えて遺跡の背後に聳え立つ岩山へ登った。ステファン中尉がキャンプしていたメサより高く、車で上がれなかったが、ステファン中尉がまるで土地勘があるかの様に樹木の中に道筋を見つけて登って行くので、その後ろを忠実に辿った。太陽が樹木に隠れている間は暑さをあまり感じなかった。蒸し暑いが、虫は寄ってこなかったし、ヒルや蛇にも襲われなかった。尾根の上に出た時は昼になっていた。
ロホが最後尾でシュライプマイヤーの背中を押す感じで歩いていた。静かなので、時々ボディガードは後ろを振り返り、先住民の中尉がちゃんとついて来ていることを何度か確認した。
岩山の上は低木がまばらに生えているだけだった。ステファン中尉が脚を止め、シオドアに手で止まれと合図した。だからシオドアも後ろの2人に止まれと合図を送った。地表が平らになっている場所が目の前にあった。円形だ。そして中央に穴があった。
ステファン中尉が用心深く足を前へ踏み出した。あの石組の天井の上だ。そっと歩いて行く彼を見て、洞窟の中に入っていないシュライプマイヤーが不思議に思ったのだろう、シオドアに中尉は何をしているのかと尋ねた。
「古代の裁判の仕組みを確認しているんだよ。」
ステファン中尉が開口部の縁から下を覗き込んだ。セルバ人にあまり良い印象を持っていないシュライプマイヤーが英語で呟いた。
「少なくとも、彼は高所恐怖症ではない訳だ。」
中尉が戻って来た。シオドアとロホに向かって言った。
「このサラが使われなくなって、誰かが穴を塞いだ筈だ。それが何時頃のことかわからないが、昨日、蓋の部分が落ちた。高度があるから、落ちた時の衝撃で砕けた岩が飛び散り、偶然来合わせた調査隊に被害が出た。」
「偶然の不幸か。」
とシオドアは言ったが、内心は納得出来なかった。岩が落ちただけで、あんな爆風みたいな衝撃波が生じるだろうか。爆弾でも仕掛けられていたのではないか。遺跡を神聖視する過激派が発掘に反対してテロを行ったとか。それとも反政府ゲリラが共和国の威信を貶める為に仕掛けたとか。大統領警護隊なら、それぐらいのことは想像出来るだろうに。
ロホが崖っぷちに立って遺跡を見下ろした。何か考え込んでいた。シュライプマイヤーは早く下りたいのだろう、山の周辺を見渡した。英語で呟いた。
「こうやって見ると、本当に何もないジャングルだなぁ。イタリア人が言っていた消えた村って言うのは、何処にあったんですかね、博士?」
ステファン中尉が、そしてロホが、初めて彼をまともに見た。
「消えた村?」
ステファン中尉がシュライプマイヤーに近づいて来た。英語で彼は話しかけた。
「今、消えた村と言ったか?」
シュライプマイヤーは、この時改めて2人の大統領警護隊の隊員が英語を解することを知った。聞かれてマズイことを言った訳ではない。だが、彼は不意打ちをくらった気分でちょっと狼狽えた。
「今朝、トラックの上で、イタリア人の学者が村人から聞いた話を喋ったんだ。この近くで40年か50年かそこらへんの昔の話だと・・・村人全員が消えてしまった村があったそうだ。 S Fだろう?」
シオドアは、また2人の中尉が目と目を合わせるのを目撃した。ふと疑念が湧いた。
こいつら、目を合わせるだけで会話出来るんじゃないか?
「S Fだな。」
とステファン中尉が言った。ロホも頷いた。
「『Xーファイル』でも見たのでしょう。」
そして大きく腕を振って撤退の合図をした。
「下へ降りましょう。昼食の時間です。」
1 件のコメント:
原作では、「真空の風」と言う裁判方法になっていた。
しかし真空では人を傷つける現象は起こらないと知って、裁判の方法を書き換えなければならなかった。
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