教会はすぐそこだったが、少佐はその裏手の墓地の入り口前に車を停めさせた。パトカーのサイレンが近づいてきた。尾行車も教会の前に到着した。
「俺達を、”コンドル”の一味だと通報したのかも知れないな。」
とシオドアが憂鬱な気分になって呟いた。少佐は気にせずに墓地の中へ入って行った。門扉が勝手に開いたので、彼女が開けたのだろう。一行は急いで彼女の後に続いた。少佐は仲間を墓地の入り口から10メートル程入ったところにあるマリア像の前へ導いた。ステファン大尉が足を止めた。
「少佐、ここの”入り口”は狭いですよ。」
スペイン語だったのでアリアナには理解出来なかったが、シオドアもその意味することが分からなかった。
「”入り口”に幅があるのかい?」
「スィ。全員が一斉に入るには狭いのです。」
ステファン大尉には空間の隙間が見えている様だ。これは以前から彼に備わっている能力だから、”見る”ことは彼等には普通に出来るものなのだろう。
ケツァル少佐はシオドア達の目には何もない空間を右から見たり左から見たりして大きさを測った。
「通れないことはない。」
と彼女は呟き、仲間を振り返った。
「但し、1人ずつ、縦に並んで入らねばなりません。」
シオドアは尋ねた。
「縦に入ると何か問題でもあるのかい?」
「先導者が疲れます。全員を引っ張らなければならないので。 着地が難しくなります。」
シオドアはステファン大尉を見た。
「少佐は着地が上手じゃなかったっけ?」
部下の立場でコメントしづらいが、大尉は彼に答えた。
「まともに着地された試しがありません。」
スペイン語が分からないアリアナが、外の騒音を気にした。
「パトカーが来たわよ。」
少佐がステファン大尉に命令した。
「先導しなさい。ドクトラ・オズボーンの手を握って。ドクトル、片手でドクトラの手を握って、もう片手で私の手を握って!」
体の向きの前後を気にしている暇はなかった。ステファン大尉がアリアナの右手を掴んだので、シオドアもアリアナの左手を握った。少佐がシオドアの空いた手を握った。大尉が叫んだ。
「入ります!」
警察車両が墓地の前に停まった。ステファン大尉が空中に体を捩じ込ませた。彼の体が暗闇に溶け込んだので、アリアナが息を飲んだが、彼女も彼の強い力に引っ張られて空中に消えた。シオドアも続き、墓地に警察が駆け込んだ時、少佐の赤いジャンパーが闇の中に消えていった。
尾行していた男達が警察を掻き分け、走って来た。
「”コンドル”は?」
「消えた。」
「何?」
「そこで消えたんだ。抜け穴があるのかも知れない。」
警察が応援を呼ぶ声を聞きながら、2人の尾行者はマリア像を眺め、顔を見合わせた。
「また”コンドル”は消えた。」
「研究所は混乱しているし、将軍のオフィスも連絡が取れない。どうなっているんだ?」
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