その夜、テオはエル・ティティのゴンザレス署長のところへ電話をかけた。笛からわかったことを報告すると署長は喜んだ。
「やっぱりお前は頼りになる息子だ!」
「まだ喜ぶのは早いぜ、父さん。死体が誰なのかわかっていないんだから。場所の見当がついたってだけのことさ。空振りかもしれないし。」
「そうだとしても、俺はがっかりせんよ。あの死体も気にしてくれる人がいて嬉しかっただろうさ。ちっとは安心出来るんじゃないかな。誰にも思い出してもらえないなんて、辛いからな。」
それはテオが一番身に染みてわかっていた。バス事故で記憶を失って2ヶ月、誰も彼を探しに来なかったのだ。自分は何処の誰なのか、探す価値もない人間なのか。犯罪者だったのかも知れない。天涯孤独の身の上だったのか?
結局、彼が生まれ育った国立遺伝病理学研究所は、グラダ・シティとオルガ・グランデしか探していなかったのだ。2つの都市を結ぶ田舎の幹線道路で交通事故があって、テオがそれに巻き込まれたなどと想像すらしていなかった。テオは偶々事故を起こしたバスに乗っていた可能性が考えられた犯罪者を追跡してやって来たケツァル少佐と出会い、彼女に誘導されるままオルガ・グランデに行って研究所の科学者と遭遇した。しかしバナナ畑の死体はもう動けない。
「オルガ・グランデ警察には俺から連絡を入れておく。」
とゴンザレスが言った。
「その笛を使うシャーマンがいた村がオルガ・グランデ警察の管轄なのかどうか、知らんがな。」
テオは大統領警護隊も少し協力してくれたと言えば?と言おうとして止めた。ロス・パハロス・ヴェルデスの名を出せばオルガ・グランデ警察は動くだろうが、それではケツァル少佐に迷惑がかかるかも知れない。大統領警護隊文化保護担当部は、西部の遺跡監視の時陸軍のオルガ・グランデ基地をベースに活動するからだ。
結局彼が出来たことはそこまでだったので、その件は終了したと終われた。
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