2021/08/07

太陽の野  18

  ケツァル少佐が選んだ入り口は閉鎖されて15年経ったと言う廃道だった。閉じられた扉をこじ開けて数メートル行くと竪穴になった。昔はエレベーターが設置されていたのだ。腐食したケーブルの残骸が岩壁にへばり付いていた。ライトで照らしてみると光が届く範囲に底が見えたが、飛び降りる訳にいかない。ロープを入り口の鉄柱に固定し、最初にロホが降りた。足場を数カ所確認して下へ降り立つと、次に荷物を降ろした。それからシオドアの番だった。岩登りは初めてだったので、最初は流石に躊躇したがロホが印を残した場所に足を引っ掛けながらなんとか下へ到着した。始まったばかりなのに既に汗だくになった。続いて少佐が飛ぶように降りて来て、最後にステファン大尉が到着した。穴の中は冷たく湿っぽかった。風が微かに吹いていた。
 バルデスは人数分のヘッドライトを用意してくれていたが、使用したのはシオドアだけだった。”ヴェルデ・シエロ”達は暗闇でも目が見えるのだ。それでもヘルメットに着けていたのは、シオドアのライトが使えなくなった時の用心だった。

「神殿は地図ではこの方向ですね。」

とロホが言ったが、シオドアには見えなかった。どっちだ?とキョロキョロしかけると、ケツァル少佐が横に来て手を繋いでくれた。

「私達だけが見えていると言うことを忘れてはいけません。ロホ、貴方が先頭です。行手に何があるか報告しなさい。カルロ、貴方は殿です。ヘッドライトを点けてドクトルに周囲の様子が見える様に心がけなさい。ドクトル、貴方は申し訳ありませんが、出来るだけ荷物を持って下さい。但し、両手は使えるように空けて下さい。」

 指図した彼女自身はアサルトライフルの安全装置を外した。

「少しでも怪しい気配を感じたら、私は撃ちます。私が警戒音を発したら全員伏せなさい。」

 勿論男達も武装している。シオドアも拳銃を持たされた。少佐が言った。

「一緒に戦い一緒に帰る。」

 以前も聞いたことがある。反政府ゲリラ”赤い森”のカンパロと戦った時だ。シオドアは躊躇わず、ステファン大尉とロホと共に声を合わせて復唱した。

「一緒に戦い一緒に帰る。」

 そして4人は歩き出した。
 息が詰まりそうな暗闇だ。しかし坑道の随所に捨てられたケーブル、バケツ、掘削道具が朽ちかけて転がっていた。ランプを置くのに使われた棚も掘られていた。人間がいた痕跡があるだけでも心強い。枝道が何本かあったが、ロホは迷わず行く先を選んで進んだ。
 静寂がプレッシャーになって来たので、シオドアは少佐に囁きかけた。

「さっきの出発のフレーズだが、あれは君達のモットーかい?」
「と言うと?」
「大統領警護隊文化保護担当部のモットーなのかな?」
「ノ。」

と少佐が短く答えた。

「だけど、カンパロからロホを救出に行く時も、あれを唱えただろう?」

 すると後ろでステファン大尉が言った。

「文化保護担当部は戦闘部隊ではありません。あれはセルバ陸軍のモットーです。」
「我々も一応は陸軍の一部の様な物ですから。」

とロホも言った。

「敵と戦う時は、己を鼓舞する目的で唱えます。」
「文化保護担当部のモットーはないのかい?」

 するとステファンが言った。

「さっさと報告書を上げる!」

 ロホと少佐が爆笑した。


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