テオはビニルバッグから例の笛を出した。ケツァル少佐は興味なさそうに視線を向けた。
「ケ・エス・エスト?」(何ですか?)
「笛だと言われている。」
少佐がその汚い物体を素手で掴み上げた。色々な方向から眺めて鑑定結果を出した。
「新しい年代の物ですね。」
勿論テオはそれが遺跡の出土物だとは考えていなかった。木製の物は腐ってしまって残らないことが多い。セルバの古代文明の遺物は石や粘土で作られた物が殆どだった。
「そいつはね、先週エル・ティティのバナナ畑で発見された身元不明の死体が身に付けていた物なんだ。」
普通、そんなことを聞かされたら女性はキャアっとか何とか叫んで物を放り出してしまいそうだが、ケツァル少佐はテオの期待を裏切らず、笛を顔に近づけてますますじっくりと観察した。そして指摘した。
「これは半分欠けていますよ。」
「欠けているって?」
彼女が笛の紐が付いていない方の端を示した。
「木の切り口がもう片方より不規則で鋭利でしょう。この笛はもう少し大きかった筈です。割れてしまったのでしょう。中にピーがあった筈ですが、失われています。楽器として作られたと言うより、ただのホイッスルの様な役目の笛だったと思います。」
そしてテオの顔を見た。
「貴方がその死体の身元探しを引き受けたのですか?」
物好きですね、と言う響きがあった。この男はどうしていつも他人の厄介ごとに首を突っ込むのだろう、と彼女は思ったに違いない。
「好きで引き受けた訳じゃない。」
とテオは言い訳した。
「エル・ティティの神父が俺に協力を求めてきた。俺もかつては身元不明者だったし、誰かに恩返しをしてみたい。それに自分の地元で見つかった身元不明の死体が誰なのか解明したいじゃないか。」
少佐が笛を彼の方へ差し出した。
「残念ですが協力は出来ません。この笛が古代の遺物だったら私の知識も多少の役に立つでしょうが、新しい物は何もわかりません。それにこれは素人の手作りと見ました。製造者を探すのは無理です。」
しかし、彼女はいつも他人を突き放してから、一言助言をくれる。
「材質のDNAを調べてみては? 或いはムリリョ博士にお見せするとか?」
今回は二言くれた。
0 件のコメント:
コメントを投稿