2021/09/07

第2部 地下水路  12

  お昼ご飯は大学のカフェだった。テオもギャラガもステファンも空腹だったが、相変わらずのケツァル少佐の食欲には及ばなかった。テオとギャラガは下水の臭いが微かに残る財布の中身を早く使ってしまいたかったので、少佐の分も支払った。ステファン大尉は財布をラス・ラグナスで置いてきたので文無しだった。当然彼の分も支払った。

「財布を買い換えないとな。」

 テオはテーブルに着くとそう言った。ギャラガは一つしか持っていない財布を眺め、溜め息をついた。するとテオが尋ねた。

「誕生日は何時だい? 財布をプレゼントする。」
「それはいけません。」
「否、俺が君を下水に突き落としたも同然だから。誕生日を教えないと言うなら、クリスマスに贈る。」

 それで仕方なく誕生日を告げた。そこへ少佐とステファンが食べ物を持って戻ってきた。食べ始めて間もなく彼女がギャラガに尋ねた。

「ゲンテデマと言う言葉をよく知っていましたね。」

 ギャラガは恥ずかしく思いながら言った。

「休日は1人で海へ出かけて浜辺で過ごすのです。街で遊ぶのに慣れていないし、友達もいないので。通りかかる漁師の会話を聞くともなしに聞いて耳に覚えのある単語だなと思ったのです。」
「泳ぎは得意ですか?」
「多少は・・・」
「よく行く浜辺はどの辺りですか?」
「グラダ・シティの南の方です。」
「ガマナ族を知っていますか?」
「スィ。」

 ギャラガは一瞬”心話”を使おうかと思ったが、テオがいるので言葉に出した。

「グワマナ族のことですね? ”ティエラ”はガマナと発音しますが。」

 テオが驚いて彼を見た。グワマナ族は”ヴェルデ・シエロ”だ。普通他部族は一般人に混ざって暮らしているが、グワマナ族は集団で生活しているのか? それも普通の人間のふりをして? 
 テオの驚きを感じて少佐が彼を見た。

「グワマナは大人しい部族で、現代も昔のしきたりを守って暮らしています。気の力も弱いので周囲に溶け込めるのです。国の南部で漁業や農業をして静かに暮らしていますよ。」
「だが、例の男はガマナ族の疑いがあるんだな?」
「確かめないといけませんが・・・」

 テオは先刻からステファン大尉が大人しいことが気になった。

「カルロ、まだ頭が痛むのか?」
「ノ・・・」

 大尉は物思いから覚めた様な顔をした。

「あの連中が誰を呪っているのだろうと気になったのです。呪いは相手を倒すだけではありません。呪った方も犠牲を強いられます。相手の命を奪うと自分も死ぬのです。」
「え? そうなのか?」

 テオはびっくりした。人を呪わば穴二つ。余程の覚悟がなければ他人を呪うことをしてはいけないのだ。これは神様を怒らせて呪われるのとは次元が違う。

「コンドルの目と人形の呪いは関係があるのかな?」
「同じ人間の仕業なら関係あるのでしょう。」

 少佐がギャラガをチラリと見た。

「でも今日の捜査はここで一旦休みにしましょう。少尉も貴方もシエスタが必要な顔ですよ。」

 確かにテオもギャラガも昨夜から一睡もしていなかった。睡眠だけはたっぷり取ったステファン大尉が申し訳なさそうな顔をした。

 

1 件のコメント:

Jun Tacci aka ねこまんま さんのコメント...

Dos agujeros si maldices a una persona   このスペイン語で合ってるのかな?

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