2021/09/09

第2部 ゲンテデマ  4

  小規模の地震が群発するサン・ホアン村は井戸が涸れ始め、占い師のフェリペ・ラモスは神様に救いを求めてラス・ラグナス遺跡へ行った。そこで神様の遣いであるコンドルの石像の目玉を盗まれていることに気がついた。井戸が涸れるのは神様の怒りだと思ったラモスは、神様に話を聞いてもらおうとオルガ・グランデへ”ヴェルデ・シエロ”を探しに行った。バルで「雨を降らせる人を探している」と言って心当たりを探っていた彼は、不幸にも遺跡荒らしの”ヴェルデ・シエロ”に出くわしてしまった。恐らくグワマナ族の漁師だった2人の男だ。彼等はラモスからコンドルの目玉を盗まれた話を聞き、ことが大きくなる前に手を打った。ラモスを殺害してしまったのだ。身元がわかる物を奪い取り、エル・ティティ郊外の畑の脇に遺体を捨てた。
 だが遺体が身につけていた”雨を呼ぶ笛”だけは取るのを忘れたのだ。エル・ティティ警察署長ゴンザレスの養子テオがそれに興味を持ち、大学で考古学教授ケサダに鑑定してもらった。笛がオルガ・グランデ北部で使われる雨乞いの儀式の物だと教えられたテオは、ゴンザレスに調査結果を伝え、ゴンザレスは地元警察に問い合わせてみた。そして2月前にサン・ホアン村のラモスが行方不明になったと言う届出があることを知った。
 一方大統領府西館庭園で謎の「視線」騒ぎが起きた。実際は何時から始まったのか不明だが、警備第4班が一巡以上するより前からだ。気味が悪いと感じた若い警護隊隊員達が報告書に書いて提出したのが、ほんの先週末だった。経験値の高い司令部の人間達は「視線」の正体に見当がついただろうが、それが何故そこに起きたのか、ステファン大尉とギャラガ少尉に調査と対処を命じた。
 大統領警護隊文化保護担当部から移籍したステファン大尉は、ギャラガと現場へ行き、空間の歪みを発見した。それが「視線」の正体だと彼はすぐにわかったが、それがそこに突然出現した理由は調査に出かけなければわからなかった。2人は”節穴”の向こうに見えた石らしきものを手がかりに、遺跡のエキスパートであるセルバ国立民族博物館のムリリョ博士に協力を求めた。ムリリョ博士は”節穴”の向こうに見えた石らしきものは、ラス・ラグナス遺跡の物だろうと見当をつけた。国内の遺跡に立ち入るには文化保護担当部の許可が必要だ。大尉は文化保護担当部の元同僚ロホに協力を求め、ロホは翌朝2人をケツァル少佐の自宅へ連れて行った。
 テオの殺人事件の身元探しを知っていたケツァル少佐は、ラス・ラグナス遺跡がサン・ホアン村のそばにあることを知り、ステファンとギャラガの遺跡捜査にテオとデネロス少尉を参加させた。テオの観察眼に期待したのと、デネロスに現場体験と護衛をさせたのだ。
 日曜日の夜にオルガ・グランデ基地で合流した4人は月曜日の朝、サン・ホアン村を訪問した。そこでラモス失踪の経緯を聞き、井戸が涸れ掛けていることを知った。ラス・ラグナス遺跡ではコンドルの神像の右目が失われ、目があった箇所に”節穴”が出来ていることがわかった。それが大統領府西館庭園の「視線」の正体だった。遺跡をさらに調べると、テオが抑制タバコの吸い殻を発見した。抑制タバコは”ヴェルデ・シエロ”しか吸わないタバコだ。遺跡荒らしが”ヴェルデ・シエロ”であった疑いが生じた。その夜、再び遺跡を調べていたデネロスとギャラガは遺跡の精霊とコンタクトを取れそうになるも失敗した。そしてステファンが突然姿を消した。
 ステファン大尉は誰かが先に遺跡に来て”入り口”に入るのを気配で知った。うっかり”入り口”に手を入れてしまった彼は吸い込まれ、”着地”した途端に何者かに殴られて昏倒した。
 大尉が消えたことを知ったテオとギャラガは”入り口”が閉じてしまう前に追いかけようと”入り口”に入った。そしてグラダ・シティの下水道の中に”着地”した。2人は下水道を歩き、地上に上がってケツァル少佐に助けを求め、”着地”した地上の座標を探した。そして何処かへ立ち去るグワマナ族の2人の男を目撃し、空き家に放置されたステファン大尉を救出した。グワマナ族達は呪いの儀式を行っていた様子だったが、妨害が入って逃げたのだ。彼等は魚の鱗や刺青からグワマナの漁師ゲンテデマであると推測された。
 
 サン・ホアン村から1人で帰って来たマハルダ・デネロス少尉はステファン大尉の無事な姿を見るなり彼に抱きついてワンワン泣き出した。1人でキャンプを片付け、2人の二等兵の記憶からステファン、ギャラガ、テオの記憶を消して、基地に戻って基地司令官からも記憶を抜き取り、彼女1人で遺跡調査に来たと思い込ませた。そして今にも落ちるんじゃないかと思わせる空軍の古い輸送機でグラダ・シティに帰って来たのだ。
 いつもは冷たい目で部下達が感情的になるのを見ているケツァル少佐がデネロスをステファンから引き剥がし、優しく抱き締めてやった。

「1人でよく後始末を手際良くやり遂げました。賞賛物ですよ。」
「少佐ぁ・・・もし皆とあれっきり会えなくなったらって思ったら、すごく不安でした。」

 男の部下達と違ってデネロスは感情をまっすぐにぶっつけて来る。少佐は食べてしまいたいくらいにこの女性少尉が可愛くて仕方がない。デネロスにハンカチを渡した。

「さぁ、顔を拭いて・・・皆で晩御飯に行きますよ。」
「私、埃だらけです。」
「それじゃ、うちに来なさい。男達に先に店を選んでテーブルを確保してもらいましょう。」


1 件のコメント:

Jun Tacci aka ねこまんま さんのコメント...

男の部下と女の部下の扱いがちょっと違うケツァル少佐。
性差別ではなく、メスティーソのデネロスの能力が純血種の男達より劣るのでカバーしてあげているだけ。

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