2021/09/08

第2部 ゲンテデマ  2

  4階のオフィスに上がると、大統領警護隊文化保護担当部の場所にはロホ1人だけがいて、書類を眺めていた。ケツァル少佐とステファン大尉がカウンターの内側に入ると、昼休みでも出かけずに残っていた職員達が立ち上がった。大尉は忽ち古巣の職員達に取り囲まれた。
 少佐は彼をほっぽって己の机へ行った。ロホが立ち上がって机の前に来た。すぐに目と目で報告が交わされた。

ーーコンドルは高山地帯に住む鳥です。セルバにコンドルを神とする風習はありません。しかし、コンドルの神像を祀る部族がいた訳ですから、南から北上して来た外来種族の遺跡と考えられます。
ーーコンドルは天空の神の使者でしょう?
ーースィ。ですから、ラス・ラグナスを造った部族は神として祀っていたのではなく、神の使者として崇拝していたのでしょう。地上の者の願いを天空の神へ伝えてもらう為に祀っていたのだと思われます。
ーーでは、そのコンドルの像から目玉を奪う意味は何ですか?
ーーコンドルは天空から地上を見ます。その目を使う呪術ですから、何かを探していたのではありませんか?
ーー探す?

 少佐は考えた。

ーー目玉泥棒と思われるグワマナ族の男達が粘土人形を用いた呪いの儀式を行っていた形跡がありました。彼等は呪う相手を探して、コンドルの目玉を使ったのではありませんか?
ーー考えられます。
ーー彼等はカルロのジャガーの心臓を生贄に望んだそうです。
ーー心臓はコンドルへの礼でしょう。しかしカルロから心臓を取れなかった・・・
ーー年嵩のシャーマンが心臓を欲し、若い男がカルロは”出来損ない”だからナワルを使えないと言って止めたそうです。
ーーグワマナ族のシャーマンならカルロがナワルを使えるか使えないか判別出来るでしょう。若い男がシャーマンの弟子なら、判別出来る筈です。そいつはカルロを庇ったのです。
ーー生贄を得られなかったとすると、彼等はまだ標的を見つけていないのでしょう。
ーーテオの街で見つかった死体が、彼等の犠牲者だとすると、また殺るかも知れません。

 ステファンが職員達の歓迎から解放されて彼等のところへ来たので、少佐とロホの無言の会話は中断した。少佐がロホに言った。

「大尉に報告しなさい。彼の任務です。」
「承知しました。」

 ロホはステファンの目を見た。ステファンが憮然として呟いた。

「私の心臓はコンドルの餌か?」

 ロホが苦笑した。

「怒るなよ。多分、目玉の石を取り戻して元の場所に嵌め込めば、”節穴”の問題は解決すると思う。」

 

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