2021/10/07

第3部 潜む者  12

  ミーヤ・チウダに到着したのは暗くなってからだった。少佐は真っ先にテオが宿泊するホテルを抑えてくれた。狭い部屋でバスルームはなかったが、一応共同のシャワーとトイレが同じフロアにあった。ハイウェイが近くを通っているので、町はそれなりに賑わっており、テオ達は食事の為にホテルで教えられた店へ行った。
 潜入捜査でないし、地元でもないので、少佐とギャラガ少尉は胸に緑の鳥の徽章を付け、自分たちが何者かしっかりアピールした。店長が挨拶にテーブルまでやって来て、お勧め料理を色々と紹介した。
 テオは店内の客の様子を眺めた。ホテルが紹介するだけあって、高級ではないがそれなりに経済的に余裕のある層が利用する店の様だ。女性客も多かった。軽快な音楽が流れ、国境が近い町らしく検問所が開くのを待って町に宿泊する旅行客や貿易業者が主な客筋の様だ。
 テオはそっと少佐に尋ねた。

「港で盗掘品が見つかったそうだが、国境を越えて南の国から船に乗せた方が早くないか?」

 少佐も小声で答えた。

「ここの国境検問所は厳しいので有名です。」
「夜は閉まるのか?」
「運送業者以外は通れません。」

 少佐は言わないが、恐らく国境警備に大統領警護隊が働いているに違いない。だから町の人々は少佐とギャラガを珍しがらないのだ。ロス・パハロス・ヴェルデスを見慣れているのだ。
 料理が出てくる頃にアスルが現れた。かなり久しぶりだったので、テオは思わず立ち上がってハグしようとした。アスルは当然拒否だ。テーブルのかなり手前で立ち止まって、少佐に敬礼した。ギャラガが立ち上がり、先輩に敬礼で挨拶した。少佐は座ったままで、アスルに座れと手で合図した。テオとギャラガも腰を下ろした。座ったアスルがテオを見ないで言った。

「わざわざ来て頂いて申し訳ない。」

 いつものアスルだ。テオは気にしなかった。

「検査結果だけ持って来たが、それで事足りるだろうか?」
「わからない。」

 アスルは不機嫌だ。少佐が小声で尋ねた。”心話”を使わないのは、テオに聞かせたいからだ。

「今日襲われた人はどんな状態です?」
「怪我で済みました。腕を噛まれたのです。」
「噛んだモノについて何か言ってましたか?」
「同じですよ、チュパカブラです。」

 小さな声で会話していたにも関わらず、近くのテーブルの客がこちらを見た。エル・パハロ・ヴェルデが警護している遺跡発掘隊がチュパカブラに襲われたと言う噂は既に町に広まっているのだ。テオはこの場で話すべきではないと判断した。

「時間があれば、後で話そう。今は食うことに集中しよう。」


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