2021/10/07

第3部 潜む者  13

  アンティオワカ遺跡はミーヤ遺跡から車で半時間ジャングルを走った奥にあると言う。そちらはミーヤ遺跡の3倍の面積で、フランス隊が発掘している。だから盗掘品は、フランス隊の中の誰かが盗み出した可能性があった。ケツァル少佐とギャラガ少尉はその犯人を調べに行くのだ。盗掘品が麻薬密売組織の荷の中にあったことも気になる事実だった。
 アンティオワカ遺跡に行くと言う少佐と少尉をテオはホテルの前で見送った。夜中でも”ヴェルデ・シエロ”は関係なく活動する。夜中のうちに現場検証をしてしまおうと言う腹だ。ミーヤ遺跡は携帯が使えるが、アンティオワカは使えないので、暫く互いに音信不通になってしまう。テオはちょっぴり寂しかった。しかし不安はなかった。ツンデレだが、アスルは十分頼りになる。
 ホテルの部屋に客を呼び込むことは歓迎されないが、緑の鳥の徽章を付けた軍人は特別だ。ホテルの支配人もフロント係も何も言わずにアスルがテオについて階上へ行くのを見送った。
部屋に入ると、アスルはドアの鍵をちょっと弄ってみた。それからテオに訊いた。

「今夜ここに泊まって良いか? 床で構わないから。」
「構わない。俺が床に寝ても良い。寝袋を持っているから。」
「ノ、貴方はベッドだ。」

 彼は目でドアを指した。

「鍵が良くない。」

 つまり、鍵の構造が簡単なので、直ぐに破られると言うことだ。アスルはテオの用心棒として泊まってくれるのだ。テオは2人部屋に移ろうかと提案したが、アスルは狭くても平気だと言った。アスルの荷物は大統領警護隊のリュックとアサルトライフルだけだった。
 テオはベッドに座ると、床に座り込んだアスルに尋ねた。

「チュパカブラは出没する場所が決まっているのか?」
「決まってはいないが、俺や警備兵がいる所に出て来ない。1人になった作業員が襲われているが、これは特におかしいことじゃない。」
「そうだな、病気のコヨーテなら、1人でいる人間しか襲わないだろう。」
「今日の怪我人は腕を噛まれたが、前の2人は首だった。否、正確には首の付け根辺りだ。」
「血を吸われたって?」
「被害者がそう言っているだけだ。俺が見たところでは、ただの咬み傷だった。」

 アスルは最初から事件は作業員の狂言ではないかと疑っている口ぶりだ。

「傷は深かったのか?」
「噛まれた場所が場所だけに出血が多くて本人が騒いだ。しかし深い傷には見えなかった。」
「彼等はまだ病院にいるのか?」
「ノ、金がかかるから家に帰った。連中はこの近くの村の農民だ。」

 テオは取り敢えず謎の動物の体毛の分析結果をアスルに渡した。前日にロホに渡したのと同じ内容だ。

「犬かコヨーテだとしても・・・」

とテオは疑問点を呟いた。

「人間の首に噛みつこうとしたら、ジャンプしなきゃいけないな?」
「確かに2人連続で首を狙って攻撃して来るのは不自然だ。いかにもチュパカブラらしく見せる演出に思える。」

 そこで会話が途切れた。窓の外から聞こえたどこかの店の音楽も既に止んでいた。時計を見ると12時前だった。テオは試験問題を考えるのを諦めて、アスルに寝ろと言った。

 

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