ドロテオ・タムードの次男は話を続けた。
「川向こうの家は我が家と違って伝統を重んじます。ですから男の妻と子は男と同居していましたが、子供の養育費は妻の実家から出ていました。それなのに男は北米の女には自分で養育費を送っていたのです。妻の怒りはお金の問題でした。男と妻の仲は拗れてしまい、男は心の病で亡くなりました。」
ロレンシオ・サイスの父親は死んでいた? ロホとステファンは再び顔を見合わせた。サイスはそれを知っているのだろうか。ロホが「失礼します」と断ってから質問した。
「その男が亡くなったのは何時ごろのことでしょうか?」
「4年前です。」
即答だった。サイスがセルバ共和国へ移住して来たのも4年前だ。父親が亡くなって養育費の送金が止まったので、こちらへ来たのだろうか。彼は父親に会えたのだろうか。
ロホが再度確認の質問をした。
「ロレンシオ・サイスはアスクラカンへ来たことがありますか?」
「ノ。」
これも即答だった。ドロテオ・タムードが息子の代わりに言った。
「私は今日初めてその話を知ったが、もし川向こうの家の北米の息子がこの街へ来たら、男の妻が大騒ぎした筈だ。私はあの女を知っている。気性の激しい女だ。」
「その川向こうの家に娘はいませんか? サイスと同じ様な年齢の・・・」
すると後ろにいた三男が答えた。
「男の娘が1人います。妻の子供はその娘1人だけです。」
「純血種ですか?」
「スィ。」
ステファンはタムードと長男、次男に「失礼」と断って、後ろを振り返った。
「教えて下さい、その娘はこんな顔ですか?」
と言って三男の目を見た。三男も彼の目を見た。そして頷いた。
「ビアンカ・オルトです。」
「グラシャス。」
ステファンはロホを見た。主人一家に失礼がないように声を出して言った。
「ビアンカ・オルティスはビアンカ・オルトだ。そしてロレンシオ・サイスの腹違いの姉だ。」
「ビアンカは名前と身分を偽ってサイスに近づいたのだな。目的は何だ?」
するとタムードの次男の方から質問して来た。
「ビアンカ・オルトがロレンシオ・サイスのそばにいるのですか?」
ステファンとロホは彼等に向き直った。ステファンは今回の訪問の理由を最初から説明することを決心した。
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