2021/10/28

第3部 隠れる者  16

  通常の月曜日はテオの授業はない。テオはエル・ティティのゴンザレスの家からグラダ・シティに昼前に戻り、自宅で体を休めながら火曜日の授業の準備をするのが習慣だった。しかし試験期間は違った。テオのクラスは火曜日の朝一に試験を行う。だから試験問題の作成に午後研究室に顔を出す。試験問題は主任教授から認可されたので、修正なしでプリント出来る。後は主任教授に印刷された試験問題を渡し、当日まで保管してもらうだけだ。
 午前中は空いているので、テオはロホとケツァル少佐をそれぞれ自宅へ送り届けた。ステファン大尉はデルガド少尉と交替してやる為にロレンシオ・サイスの家に向かった。

「もしセニョール・ミゲールが政治に進出されなかったら、少佐はアスクラカンで暮らしておられたのですか?」

と別れ際にロホが尋ねた。少佐が肩をすくめた。

「母はあまりあの街が好きでないのです。どちらかと言えばコーヒー農園があるカイオカ村の方を好んで、セルバにいる時はあちらの家にいます。だから私もカイオカの家の方が馴染み深いのです。」
「それを聞いて安心しました。」

 ロホは微笑んだ。

「タムード家の人々やサスコシの族長達は親切でしたが、特定の地区に住む家族達は古い考えの人が多いように感じました。もしステファン家の人達がアスクラカンのミゲール家を訪問することがあれば、かなり気をつけないといけない様に思えます。”ティエラ”は問題ありませんが、ミックスの”シエロ”には窮屈な街の印象です。」

 人当たりの良い純血種のロホがそんな風に言うのだから、ミックスのステファン大尉にはあまりリラックス出来ない土地に聞こえた。テオは少佐が少し沈んだ顔になるのを見た。

「タムード家の従兄弟達はとても大好きです。彼等と彼等の家族が将来も安全であることを願っています。」

 彼女はそう言って、それから「ではオフィスで」と部下に挨拶した。ロホも「では、後ほど」と言い、テオには敬礼だけした。勿論それで十分だ。
 テオは西サン・ペドロ通りに向かって車を走らせた。

「ビアンカ・オルトはロレンシオ・サイスを狙って来ると思うかい?」
「親戚の話を聞く限りでは、彼女が異母弟を見守っている様に思えません。」

 少佐は敵が仕掛けてくる攻撃手段を見抜こうとしている軍人の顔でフロントガラスの向こうを見ていた。


 


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