ビアンカ・オルティスはロレンシオ・サイスのファンクラブの幹部、バンドのメンバーと共にマリファナパーティーをしたと言った。勿論ロレンシオ・サイスも参加していた。彼の為のパーティーだった。
「私がリビングに戻ったら、皆床の上でぐったりしていました。眠っているのか、気絶しているのか、私にはわかりませんでした。ロレンシオだけが起きていて、でも様子が変でした。家に帰ると呟きながら服を脱ぎ始めました。」
「何故?」
とステファンが訊いた。己が変身すると分かっていなければ、服を脱いだりしない。暑くて堪らないと言うなら別だが。
オルティスは肩をすくめた。
「あの時点で既に彼は正常でなかったの。彼が放出する気の強さが不安定に変化するのを感じた。彼は普段気を抑制していた。ほとんど能力がないと私は思っていた。ピアノを弾く時だけ気を放っていたのよ。だけどそれは勘違いだったわ。彼は普段理性で抑えていただけだったのよ。」
「酒と薬でタガが外れたか・・・」
「ロレンシオは裸になるとすぐにジャガーに変身した。そして家の外に飛び出して行ったので、私は慌てて追いかけた。」
「変身するところを誰かに見られたりしなかったか?」
「ないと思うけど・・・」
オルティスは自信なさそうに言った。
「3軒ばかりの距離を追いかけて、彼を見失ったので、一旦パーティーをした家に戻った。皆まだ寝ていた。だから、もう一度ロレンシオを追いかけた。家に帰りたがっていたから、彼の家まで自転車で走ったの。そうしたら・・・」
彼女は身震いした。
「何か凄い気を感じた。私は足がすくんでしまった。ロレンシオが発したのか、それとも他の”シエロ”がいたのか・・・」
ケツァル少佐が放った気だ。単に犬達を黙らせようとお気楽に放ったグラダの族長の気だ。それがサスコシ族の女を怯えさせ、カイナ族出身の大巫女ママコナを驚かせ、薬物に酔ったジャガーの足を止めさせた。
テオは微笑んだ。オルティスはロレンシオ・サイスを守りたい一心で、大統領警護隊が大学に現れたと知ると会いに行った。そしてサイスの家と逆方向へジャガーが向かったと嘘の証言をしたのだ。
「君はサイスにまた会えるのかな?」
「わかりません。言った通り、私はファンの1人なのです。」
「君と彼の関係を彼に教えてみては?」
「そんなこと、私には出来ません。家族の了承を得なければ・・・」
「それなら・・・」
とステファンが言った。
「もう君は彼に関わらないことだ。」
テオとオルティスが彼を見た。カルロ・ステファンは大統領警護隊の隊員として彼女に言った。
「サイスは薬物使用の結果ナワルを使い、一般市民にその姿を見られた。大統領警護隊は彼を放置出来ない。長老会に彼の存在と現状を報告する。彼をどうするか、それは長老達が決める。そしていかなる決定にも、異論を唱えることは誰にも許されない。」
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