「サイスがナワルを使ったのは、どんなきっかけがあったんだ?」
一番知りたいことだ。ステファンも同じだ。彼の時は生命の危機に迫られたから、無意識に変身した。純血種の様に、成年式と呼ばれる部族の儀式で呼吸を整え、年長者達の祈りの言葉の唱和を耳にしながら生まれたままの姿になって一族の者達と心を一体にして体を変化させていく・・・そんなことがミックスの”ヴェルデ・シエロ”に出来る様になるのは、最低でも2回”はずみで”変身してしまわなければ無理だ。全身の細胞が頭で思うような形に変化してくれない。ロレンシオ・サイスの身にどんなことが起きたのか、彼もテオも知りたかった。
オルティスが躊躇った。
「パーティーをしたの・・・」
テオとステファンは顔を見合わせた。若者のパーティーには、アレが付き物だ。ステファンが尋ねた。
「クスリをやったのか?」
オルティスが小さく頷いた。
「ファンクラブの幹部5名とロレンシオとバンドのメンバー数人と・・・私。ロレンシオは父親がアスクラカンの出身だって知っていた。だからアスクラカン出身の私をパーティーに呼んでくれたの。私が血縁者だって知らないままに。お酒を飲んで楽器を鳴らして・・・そのうちに誰かがマリファナを吸い始めたの。」
「マリファナ? それだけか?」
「私はマリファナだけ・・・やばいものはなかったと思うけど、ロレンシオも調子に乗って何か吸ってた。」
「酒とマリファナ・・・」
テオはステファンを見た。
「悪い組み合わせか?」
「ノ。」
とステファンが首を振った。
「生命を脅かす程の組み合わせとは言えません。合成麻薬やコカインの方が良くない。」
「量が多かったの。」
とオルティスが言った。
「ロレンシオは普段マネージャーに厳しく食事や嗜好品に制限をかけられています。でもあのパーティーはマネージャーに休暇を与えて彼自身がはめを外したかったのです。だからお酒を浴びるように飲んでいました。そしてマリファナ、それにエクスタシーもありました。」
「おいおい・・・」
警察に知られたら逮捕されてしまう。テオは人気ピアニストも所詮は自制心の脆い若者なのだと知った。
「君は止めなかったのか?」
「クスリをやり始めた時、私は気分が悪くなって部屋を移動していました。」
「何処でパーティーをしていたんだ?」
とステファンが厳しい表情で問うた。サイスの自宅とは思えなかった。サイスはジャガーの姿で帰宅しようとしたのだ。パーティーの場は西サン・ペドロ通りより西だ。パーティーの参加者はサイスの変身を見たのか?
オルティスが体をすくめる様に両腕で自身を抱えるポーズを取った。
「ファンクラブのメンバーの1人が自宅を提供したの。家族が旅行に出ていて留守だからって。だから家中を使って騒いでいました。」
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