2021/10/26

第3部 隠れる者  11

  ”ヴェルデ・シエロ”の結界は敵である”ヴェルデ・シエロ”の侵入を防ぐためのものだ。だから車の中でラジオを聞いているケツァル少佐は結界を通れない人の気配を感じる取ることが出来る。”ヴェルデ・シエロ”の人口が少ないので、彼女が結界を張ってからシティ・ホールに近づけなくて困っている”ヴェルデ・シエロ”は目下のところ1人だけだった。建設大臣イグレシアスの私設秘書シショカだけだ。彼は大臣と共に車でシティ・ホールに入ろうとしたが、動物的な本能でそのまま車が前進すると己の脳に酷いダメージが与えられる危険を感じてしまった。彼は運転手に停止を命じ、大臣に「急に気分が悪くなったので」帰宅させて欲しいと頼んだ。大臣はボディガードが1人付いていたので、彼の要求を承諾した。車から降りたシショカは、結界の大きさを考えて、張った人間が誰だか見当がついたが、彼女が結界を張る理由が思い当たらなかった。
 携帯電話にシショカから電話がかかって来た時、彼女は面倒臭いと思ったが出てやった。

「ミゲール少佐。」
ーーシショカです。何故シティ・ホールに結界を張っているのです?
「コンサートを無事に終わらせたいからです。」
ーーそれだけですか?
「それだけです。大臣のお邪魔はしていない筈ですけど?」

 そして少佐は先刻結界に触れて引き下がった気配の主が彼だったと悟った。

「もしや、入り損ねましたか?」
ーー私は構わないが、大臣に言い訳が必要でした。

 そして”砂の民”の男は用心深く尋ねた。

ーー一族の誰かがコンサートの妨害をすると考えておられるのか?
「それが杞憂であることを願っています。ですが、これだけは確実です。大臣は無関係です。」
ーーそれなら、市民に被害が出ないよう、しっかり守っていて下さい。

 最後は皮肉を言って、シショカは通話を終わらせた。
 少佐がチッと舌打ちをしたところに、再び電話がかかってきた。テオからだった。

ーー少佐、食い物を買ってきたから、エミリオを通してやってくれないか?
「承知しました。10秒だけ下げます。」

 ラジオから歓声が聞こえてきた。コンサートが始まったのだ。

0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器...