金曜日の午後は学部毎の教授会があって、進級させる学生や落第させる学生を決める。だから木曜日の最終試験の監督を務めたテオは、お昼になるとランチも取らずに大学を出た。文化・教育省の駐車場に行くと、ケツァル少佐のベンツとロホのビートルが所定の場所に駐車されていたので、彼は雑居ビル1階のカフェ・デ・オラスへ行った。少佐、ロホ、デネロス、そしてギャラガが揃ってランチをしているのを見て、彼は店に入る前にステファンの携帯に電話をかけてみた。1回の呼び出し音の後ですぐにステファン大尉が出た。
「アルストだ。もう本部に帰ったのかい?」
ーーノ・・・お言葉に甘えて貴方の家にいます。
気のせいか、やっぱり元気がない声だ。テオは気がつかないふりをして言った。
「昼飯を仕入れて帰るから、待っててくれ。」
ーー承知しました。
電話を切ってテオは店内に入った。カウンターへ行き、持ち帰りのタコスを2人前頼んだ。それから、文化保護担当部の隊員達が座っているテーブルに近づいた。
「ヤァ、今日は全員揃ってるんだな。」
少佐以外の3人が振り返った。デネロスがニコッと笑いかけてくれた。
「アルスト先生も試験が終わったんですね?」
「スィ。明日の昼迄休めるんだ。」
ギャラガがびっくりした様な顔をした。
「明日は午後から仕事なのですか?」
「スィ。教授会がある。誰を進級させて誰を落第させるか話し合うんだ。」
「魔の会議ですね。」
学生のデネロスが身震いのふりをして、仲間を笑わせた。少佐がチラリとテオを見上げた。
「ランチは持ち帰りですか?」
つまり、一緒に食べないのか、と訊いているのだ。テオは仕方なく頷いた。
「スィ。家で待っているヤツがいるからね。」
「誰? アスル?」
とデネロスが無邪気に尋ねた。まさか、とテオは笑った。
「黒いヤツだよ。」
4人の隊員全員が彼を見つめた。何故ステファン大尉がテオの家にいるのか?と問いたげな表情だった。デネロスが小さな声で尋ねた。
「今日の未明に、ピューマを捕まえたんじゃないんですか?」
テオがすぐに返事をしなかったので、彼女はさらに言った。
「報告書の作成やら取り調べで大尉は忙しい筈ですけど・・・」
それでもテオが返事出来ずにいると、ギャラガが言った。
「私達は昨夜ミーヤ遺跡に行ったんです。 アスル先輩が不審な女を銃撃したと聞いたので、女を追跡しました。そしたら、マカレオ通りに出たんです。」
「アスルもあの辺りに”通路”があると言っていたな。」
「私達はそこで追跡を諦めたのですが、未明に町が慌ただしくなりました。日が昇る頃に官舎に帰ったら、遊撃班が外へ出て行ったと聞いたので、ステファン大尉の応援に行ったのだと思いました。」
大統領警護隊は部署が異なると互いに何をしているのか知らないのだろう。大きな出来事なら情報が拡散するのだろうが。
少佐がテオに尋ねた。
「カルロは貴方の家で何をしているのです?」
「知らない。」
とテオは正直に答えた。
「今朝は試験の監督しか仕事がなかったから、遅い時間に家を出たんだ。そしたら家の前にカルロがやって来た。疲れている様に見えたから、俺の家で休むように言った。」
その時、カウンターで彼を呼ぶ声がした。テイクアウトの用意が出来たのだ。テオは友人達に、またな、と言ってテーブルから離れた。
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