2021/11/05

第3部 終楽章  2

  サイスの家を出たステファン大尉は、本部へ帰るべきか、文化保護担当部に明け方の出来事を報告すべきかと少し迷った。迷いつつ運転していたので、気がつくとテオドール・アルストの家の前に来ていた。テオの車がまだそこにあり、丁度テオ本人が鞄を持って出て来たところだった。車に乗り込もうとして、彼は道に大統領警護隊のジープが停まっているのに気がついた。

「ブエノス・ディアス!」

 いつも優しい声をかけてくれる人だ。人1人の命を奪った直後のステファンは、なんだか泣きたくなった。窓を開けて挨拶を返して、彼はわかりきったことを尋ねた。

「お仕事なんですね。」

 テオがジープのそばへやって来た。

「スィ。何か急ぎの用かい?」

 そう言ってからテオはステファンの顔が、朝だというのに憔悴した印象を与えることに気がついた。それに相棒のデルガドはジープに乗っていない。
 テオは家をちょっと顎で指した。

「疲れているなら、中に入って休め。俺は午前中仕事だが、午後は調整すれば何時にでも帰って来られる。帰る時は電話を入れる。」

 彼は時計を見て、それじゃ、と車に戻りかけた。ステファンがその背中に声をかけた。

「彼女は死にました。」

 テオが一瞬足を止めた。そして彼は詳細を知らなくても、その意味は理解した。
 
 カルロはそうしなければならなかったんだ・・・

 彼は努めて明るい声で言った。

「それじゃ、ロレンシオはもう安全だね。」

 彼は車に乗り込み、エンジンをかけた。ジープはまだそこにいた。彼は車を出した。

0 件のコメント:

第11部  神殿        8

 ママコナは、大神官代理を救えるのは大統領警護隊文化保護担当部とテオだ、と断言した。テオは驚きのあまり口をあんぐり開けて、馬鹿みたいに立ち尽くした。ママコナが続けた。 「貴方と貴方のお友達は旧態のしきたりにあまり捉われません。それは古い体質から抜け出せない神官達には脅威なのです。...