サイスの家を出たステファン大尉は、本部へ帰るべきか、文化保護担当部に明け方の出来事を報告すべきかと少し迷った。迷いつつ運転していたので、気がつくとテオドール・アルストの家の前に来ていた。テオの車がまだそこにあり、丁度テオ本人が鞄を持って出て来たところだった。車に乗り込もうとして、彼は道に大統領警護隊のジープが停まっているのに気がついた。
「ブエノス・ディアス!」
いつも優しい声をかけてくれる人だ。人1人の命を奪った直後のステファンは、なんだか泣きたくなった。窓を開けて挨拶を返して、彼はわかりきったことを尋ねた。
「お仕事なんですね。」
テオがジープのそばへやって来た。
「スィ。何か急ぎの用かい?」
そう言ってからテオはステファンの顔が、朝だというのに憔悴した印象を与えることに気がついた。それに相棒のデルガドはジープに乗っていない。
テオは家をちょっと顎で指した。
「疲れているなら、中に入って休め。俺は午前中仕事だが、午後は調整すれば何時にでも帰って来られる。帰る時は電話を入れる。」
彼は時計を見て、それじゃ、と車に戻りかけた。ステファンがその背中に声をかけた。
「彼女は死にました。」
テオが一瞬足を止めた。そして彼は詳細を知らなくても、その意味は理解した。
カルロはそうしなければならなかったんだ・・・
彼は努めて明るい声で言った。
「それじゃ、ロレンシオはもう安全だね。」
彼は車に乗り込み、エンジンをかけた。ジープはまだそこにいた。彼は車を出した。
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