2021/11/02

第3部 狩る  10

  テオの家の来客用駐車スペースでケツァル少佐はベンツを駐めて運転席の背もたれに体を預け目を閉じていた。助手席ではテオが同様のポーズでやはり目を閉じていた。先に寝落ちしたのは彼だ。走行中に寝てしまった。自宅前に到着して、少佐が声をかけても目覚めなかった。だから彼女は彼が目を覚ます迄寝ているのだ。空にはようやく下弦の月が出て来たところだった。
 東側の通り2本南あたりで犬が突然激しく吠え始めた。犬の興奮がゆっくりと拡散する前に、少佐は背もたれから体を起こした。耳を澄まし、犬が恐怖に駆られていることを感じ取った。彼女は体を捻ってテオにキスをした。

「起きて下さい。」

 テオは寝入ったばかりだ。すぐに目覚めなかった。彼女は彼の頬を叩いた。

「起きて、テオ!」

 彼がうーんと声を上げかけた。少佐は躊躇わずに頬を平手で殴った。

「さっさと起きる!」

 テオが目を開けた。何? と呟いたので、彼女は言った。

「車から降りて家で寝なさい。」

 テオは外を見て、自宅だと気がついた。

「ごめん、寝てしまった・・・」

 彼はドアを開けた。そして犬の吠え声に気がついた。彼がまだ車内にいるにも関わらず、少佐が車のエンジンをかけた。彼は降りずにドアを閉めた。

「犬の所へ行くのか?」
「通ってみるだけです。降りないの? 今夜はもう送りませんよ。」

 テオは渋々外へ出た。
 ドアが閉まるや否や少佐のベンツは走り去った。ガソリンスタンドの方向だ、と気がついたのは、家の中に入った後だった。アスルが”入り口”があると言っていた付近だ。”入り口”があれば近くに”出口”もある。誰かが出て来たのか?
 行くべきだろうか? しかし、いつまでも相手はそこに留まっていないだろう。
 彼は寝室に入った。そしてベッドの上に体を投げ出すと、目を閉じた。


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