ロカ・ブランカの村には宿屋兼食堂が1軒だけあり、ハリケーンの後であったが営業していた。混雑しており、ロペス少佐が交渉して、なんとか一部屋を確保した。緑の鳥の徽章を見せれば2部屋ぐらいなんとか出来たかも知れないが、そんな「ズル」をしないところが、このシーロ・ロペスと言う男の良さなのだろう、とテオは思った。
「ベッドは2つだ。私は床で寝るから・・・」
とロペス少佐が言いかけると、ケツァル少佐が店の外を眺めて言った。
「大きな木が生えています。私はあの上でも大丈夫です。」
はぁ?とテオが呆れると、ロペス少佐も顔を顰めた。
「野獣ではないのです、淑女らしくベッドで寝て下さい。」
テオが笑い出し、ケツァル少佐がむくれた。ロペス少佐は気にせずにテーブルを確保して、同伴者の希望も聞かずに店のお勧め料理を3人前注文した。食事は心配の必要がない美味しさだった。
「明日の朝9時に、ロカ・ブランカの警察署で憲兵と落ち合います。」
とロペス少佐が予定を告げた。
「先に警察が回収した漂流物と救命筏の中にあった物を検証します。それから病院へ行って、生存者に面会の予定です。」
「意識を取り戻していれば良いが・・・」
テオは生存者が白人だろうが有色人種だろうが構わなかったが、事情聴取出来る状態に回復していることを願った。
食事を終えると、2階の部屋に上がった。狭いベッドを見て、ケツァル少佐が溜め息をついた。
「2人で1台を使用するのは無理ですね。」
「俺が床に寝る。」
テオはグラダ・シティを出発する時に自分の車に積んでいた宿泊用鞄を積み替えるのを忘れたことに気がつき、悔やんだ。着替えも寝袋もない。2人の少佐は大統領警護隊の常識なのか、リュックサックを持ってきており、着替えを持っていた。寝袋はないが軍人は野営に慣れている。生温い水のシャワーを浴びて、テオは上半身裸でベッドに入った。スーツを脱いだロペス少佐はTシャツと短パン姿になり、シャワーを浴びに行ったが、間もなく戻ってきた。
「女性用に一部屋空けてもらった。ケツァルはそっちへ行ってくれないか?」
「それは残念。」
とケツァル少佐が言って、自分の荷物を持って部屋から出て行った。テオは半分がっかりして、半分安堵した。
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