帰りは、ケツァル少佐のベンツをロホが運転し、アスル、ギャラガが乗った。テオの車には少佐とデネロスだ。ロホについて行けと言われて、テオは行き先がわからぬまま運転した。
「今日の遊撃班は1人足りませんでしたね。」
と助手席の少佐が言った。それでテオはいなかった隊員を思い出した。
「エミリオ・デルガド少尉だ。彼はハリケーンが上陸した日に休暇をとって、今実家に帰省中なんだ。」
「そうですか。」
少佐が苦笑した。
「あの子がいなくて良かった。」
「どうして?」
「マーゲイは身軽ですから、単独で何処にでも侵入して来ます。大勢の敵が外から銃撃して来て、応戦している時に、マーゲイが1匹中に入り込むと、大変ですよ。」
すると後部席のオセロットが口を挟んだ。
「私だって侵入出来ますよ。」
「貴女は駄目。」
と少佐が断言した。デネロスがほっぺたを膨らませた。
「どうしてですかぁ?」
「目立ちます。」
少佐がキッパリ言い切った。
「可愛いから。」
テオは笑い出した。デネロスも怒る気力を失って笑い出した。
ベンツの中では、全く別の話題が話されていた。
「ケツァル少佐はカルロに厳し過ぎるんじゃないか?」
とアスルが疑問を呈した。しかし、ロホは、
「あれで良いんだ。」
と言った。
「兄弟で大統領警護隊に入っている人は少ない。それにカルロは一度外郭団体に出て、それから再び戻された。司令部もセプルベダ少佐も彼に目を掛けている。純血種で年上の万年少尉達の妬みを買いやすい。だから、ケツァル少佐は彼に恥ずかしい思いをさせてでも、他の隊員達と公平に扱っていることを見せなければならないんだ。」
ギャラガは黙って聞いていた。彼もロホが言っている意味が理解出来た。警備班にいた頃は、能力がない偽”シエロ”と言われたり、”出来損ない”と蔑まれたりした。そして文化保護担当部に抜擢されると、今度はやっかみで皮肉を言われる。だから彼はそれ迄以上に規律を守って真面目に勤務しているのだ。
助手席のアスルが肩越しに振り向いた。
「どうだ、アンドレ、今日は思いっきり発散出来たか?」
「スィ!」
ギャラガは苦手な先輩が白兵戦の時に何度か助けてくれていたことを知っていた。それに礼を言えば、却って照れ臭さを隠すために怒る先輩であることもわかっていた。だから、彼は素直に言った。
「思いきり暴れることが出来て楽しかったです。色々教授されることもあって、勉強にもなりました。また、こんな訓練をやりたいです。」
「よし、よく言った!」
アスルが満足気に前を向いた。ロホに声をかけた。
「で、何処に行く?」
「肉が良いか? 魚が良いか?」
アスルとギャラガは示し合わせた訳ではなかったが、声を揃えて叫んだ。
「肉!」
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