2021/12/18

第4部 悩み多き神々     8

  物音でカルロ・ステファンは目が覚めた。携帯を出して見ると早朝の5時半だ。彼は上体を起こした。バスルームでシャワーを使う音が聞こえた。首を動かすと横でテオドール・アルストが寝ていた。ソファの上のアスルは猫のように丸い姿勢で眠っている。
 ステファンは立ち上がり、背伸びをした。喉が渇いたのでキッチンへ行き、水を飲んだ。リビングに戻り、テーブルの前に座って残っていた料理を摘んだ。それからバスルームに行った。このアパートの良い所は、お風呂とトイレが別の部屋になっていることだ。そして浴室も広いので3人ほどで一度に使用出来る。彼はシャワーの音を聞きながらトイレを使った。再びリビングに戻ると、先に寝落ちしていたアスルが目を覚ましてソファの上で背伸びをしていた。敬礼で朝の挨拶に替えると、彼は交代でトイレに行き、戻ってくるとキッチンに入った。
 バスローブに身を包んだケツァル少佐が姿を現した。濡れた髪もタオルで包んで、彼女はリビングを通り過ぎ、キッチンへ行った。アスルに指図した。

「朝は作る必要ありません。昨晩の残り物を片付けましょう。」
「適当にアレンジしますよ。」

 アスルは何か作りたいようだ。少佐はそれ以上意見せずに、任せます、とだけ言った。そしてリビングに戻り、床の上のテオを見下ろした。

「どうしてこの人がここに落ちているのです?」
「ここで構わないと思ったからでしょう。」

 ステファンは使用済みの皿やグラスを片付けながら言った。彼は姉が何も覚えていないのだと気がついて、言い添えた。

「貴女を寝室へ運んだのは私ではありませんから。」

 ちょっと空気がピリッとした。ケツァル少佐が・・・恥じらった。

「そうですか。」

と彼女が呟いた。

「貴方に任せたつもりだったのですが。」
「私は貴女の子守りではありません。」

 彼女は弟をちょっと睨んでから、寝室へ戻って行った。
 キッチンからアスルがやって来て、アレンジしたい料理の皿を持って行った。ステファンも片付けを手伝い、少佐が着替えて戻って来るとテーブルの上は綺麗に整理されていた。

「煮豆は要りますか?」
「あれば中尉が喜ぶでしょう。」
「冷蔵庫に作り置きがあるので、全部出してもらっても結構です。」

 美味しそうな匂いが漂い始めると、テオが目を覚ました。床の上で寝たので、体が硬っていた。彼が肩や腕を動かしている間に、早起きの3人が朝食の支度を整えた。
 デネロスが起きてきて、テーブルを見ると大急ぎでバスルームへ駆け込んだ。朝ごはんの前に身支度してしまうつもりだ。つまり、朝食準備を手伝うつもりはないらしい。
 テオは客間へ行った。ドアを開けると、中の人は2人共まだ眠っていた。ロホはベッドで、ギャラガは昨夜アスルが言った通り、床の上で寝袋に入って寝ていた。テオはちょっと考え、それから少佐の真似をして声を上げた。

「起床!」

 ロホがバッと上体を起こした。ギャラガも体を起こそうとして、寝袋だったので動けずに転がった。テオは、ごめんよ、と言った。

「”シエロ”に不意打ちを食らわせられるって、滅多にないからな。」


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