2021/12/18

第4部 悩み多き神々     7

  日付が変わってからデネロスは少佐の寝室へ去って行った。テーブルの上の食物は痛みやすい物を冷蔵庫に入れたが、あとはそのままだ。
 テオは結局客間に行かずにリビングのカーペットの上に横になった。ケツァル少佐はリビングにあまり装飾品を置いていないが、クッションだけは沢山あって、その一つを枕代わりに使った。見張りだと言いながらも、横にステファン大尉も寝転がった。2人で夜空ならぬ天井を見上げて並んでいた。カルロ、とテオは囁きかけた。ステファンが返事はしないで顔だけ彼の方へ向けた。

「少佐とは結婚しないのか?」

 ステファンが微かに笑った。

「彼女はもう私を弟としか見てくれません。事実そうですし。母もグラシエラも古い慣習には抵抗がある様です。週明けにイェンテ・グラダに行った時、私達の血が濃過ぎることを実感しました。血が濃すぎた為に、私達の親族は己を制御出来ずに皆殺しにされた。同じ轍を踏むことを、彼女は恐れているのです。それがわかった時、私も吹っ切れました。彼女を超える女性に出会えるか、それはまだわかりませんが、もう彼女を女として見るより、姉と上級将校と言う存在でしかないです。」

 そしてテオに釘を刺した。

「だからと言って、貴方が彼女を手に入れようとしたら、私が厳しい審査官になりますからね。兄弟が姉妹の婚姻相手を吟味するのは当然でしょう?」
「おっかないなぁ。」

 テオは天井を見上げて笑った。 

「そんな兄貴が家にいたから、グラシエラが雨季休暇の間仏頂面していたんだな。」
「ああ、グラシエラ・・・」

 ステファンは暗がりの中で顔を顰めた。

「少佐より彼女の方が心配です。オルガ・グランデのスラム街で鍛えられていると思いますが、グラダ・シティは色んな男がいますから。」

 テオはソファの上のアスルを起こさないよう気を遣いながら笑った。
 なんとなく、抱き枕が欲しくなってきた。だから言った。

「君を抱いて寝たいな。」
「え?」

 ステファンがギョッとなったので、彼はまた笑った。

「今の姿の君じゃない、ジャガーの君だよ。オルガ・グランデの坑道の中で君のナワルを抱き締めた時の、毛皮の手触りが素晴らしかったんだ。艶々で柔らかくて・・・君のナワルしか触ったことがないんだ。ロホは目で見ただけだったし、他の人のはまだ見たことがない。」
「煽てても変身しません。」

 ステファンが背中を向けてしまった。本気で眠るようだ。それで報告書が書けるのか?と思いつつも、テオも瞼を閉じた。

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第11部  紅い水晶     19

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