2021/12/18

第4部 悩み多き神々     9

  大統領警護隊はダラダラと朝食を取ったりしない。普通は。しかし、その朝は食事開始の合図を少佐が出すことはなく、テーブルに着いた人から順番に好き勝手に食べた。少佐は豆と果物だけ食べていたし、ロホはひたすら豆を愛していた。アスルの手料理をテオとデネロスとステファンは堪能したが、アスル本人は好きな物だけ選り分けて食べた。

「今日の軍事訓練は何をするんですか?」

とデネロスがサラダをモリモリ食べながら質問した。少佐はパイナップルを齧りながら考えた。そして逆に問い返した。

「貴女は何をしたいですか?」

 うーんとデネロスが考えこんだ。やりたいことは沢山ある。それが軍事訓練になるかな?と考えているのだ。過去に行ったのは、ボーリング(球を気でコントロールする)、デネロス農園の手伝い(体力作り)、隠れんぼ、鬼ごっこ、サイクリング、海水浴、ロッククライミング・・・。彼女はチラリとテオを見た。そして答えた。

「鬼ごっこ!」

 彼女と少佐の目が合った。 テオは彼女達が”心話”を使ったことに気がついた。デネロスは、どんな鬼ごっこを希望しているのかを伝えたのだ。うーん、と少佐が唸った。
 ステファンがフォークを置いた。

「ご馳走様でした。無事に夜を過ごして、皆さん、羽目も外しませんでしたから、私はこれで引き揚げます。」
「え? もう帰っちゃうの?」

 デネロスがガッカリした声を出した。少佐が言った。

「彼は任務でここにいたのですよ。」
「でも・・・」

 テオはふと不謹慎な軍事訓練を思いついたので、口に出した。

「カルロを捕虜にして遊撃班に取り返しに来させるとか?」

 一同が彼を見た。駄目だよね、とテオが笑いかけると、彼等は次にステファンを見た。ステファンが「え?」と言う顔をした。

「駄目です。」

と彼が言った。少佐が微笑んだ。テオは提案した本人であるにも関わらず、呟いた。

「本気か?」



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第11部  紅い水晶     19

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