2021/12/26

第4部 牙の祭り     12

「それで、貴方は何を分析しているのです?」

 ケサダ教授に訊かれて、テオは分析器を思い出した。

「遺体の爪の間に残されていた犯人のものと思われる皮膚片と、噛み跡に残されていた唾液と思われる部分を分析してビトを刺した人間とナワルを使った”シエロ”が同一人物かどうか調べているんです。」
「分析しなくても、別人です。」

 ケサダ教授は立ち上がった。

「私は行く所ができました。申し訳ありませんが、これでシエスタを終わらせて下さい。」

 テオも立ち上がった。

「有意義なお話を有難うございます。俺も助かりました。」

 そして彼は、そこで勇気を振り絞って言った。

「実は、大統領警護隊文化保護担当部の友人達に協力してもらって、”ヴェルデ・シエロ”のサンプルを集めているんです。」

 ケサダ教授が無表情で彼を見た。テオは続けた。

「”シエロ”と”ティエラ”の違いではなく、部族毎の違いをDNAで確認出来ないかと思って。例えば、”ティエラ”でも白人、黒人、黄色人種、それぞれに差があるでしょう。白人でも祖先の出身地によって差異がある。ですが、サンプルを提供する人が少なくて、まだ何もわかっていないのですけどね。純血種のグラダとブーカ、オクターリャはサンプルが手に入りました。メスティーソの3人が難しいんです。カルロ・ステファンはグラダの血が濃いですが、ブーカと白人の血が入っています。純血種と比較して時間をかければ分析出来るでしょう。マハルダ・デネロスもブーカと白人、”ティエラ”のメスティーソが入っていて、このメスティーソの部分が難しい。 ”ティエラ”のセルバ人がどの部族か分析が必要です。一番厄介なのが、アンドレ・ギャラガで、彼は父親が白人ってことですが、実際にどんな白人なのかわからない。母親は彼にブーカだと言っていたそうですが、ステファンが母親の名前はカイナ族だと言うのです。なので、カイナ族のサンプルもこれから集めないといけません。」
「失礼、話が読めませんが?」

 教授に遮られて、テオは急いでまとめた。

「ミックス達の遺伝子を分析して、彼等の能力開発訓練に使えないかと思って。どの部族の力を遺伝しているかわかれば、指導者も訓練の強化すべきところ、伸ばすところがわかるでしょう?」
「成る程。それで?」
「でね、もしよろしければ、教授のサンプルも採らせていただければ、と思って。マスケゴ族のサンプルがまだないのです。」
「グラダとブーカとオクターリャの違いはもうわかるのですか?」
「ノ、まだです。出来るだけ大勢から集めないと、個性なのか部族の特徴なのか、わからないですから。」

 ケサダ教授はドアに歩み寄り、鍵を開けた。そしてドアを開いた。

「今抱えておられる事件が解決したら、考えてみましょう。」

 目で「出ていけ」と言った。テオは拒否された、と感じた。それでも微笑して、

「気が変わったら、いつでも研究室に来て下さい。頬の内側を綿棒で擦るだけですから。」

と言って、考古学教授の部屋から退散した。

 

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