2021/12/28

第4部 牙の祭り     19

  土曜日の朝は、金曜日の夜の繁華な雰囲気がまだ残っていた。ぐずぐずと店仕舞いを遅らせている屋台に、夜の仕事が終わった人々が集まって何か食べていた。もしかすると、そう言う客を相手にしている早朝営業の屋台かも知れない。

「何か食うか?」

とテオが車を停めると、少佐がさっさと降りて屋台へ行ってしまった。駐車場所がないので、仕方なく車中で待っていると、彼女が湯気の立つピタパンのサンドウィッチとカップ入りのコーヒーを2人分持って戻って来た。店がちゃんとテイクアウト用にカップを運ぶ紙のトレイを用意していたので、1人でも運べたのだ。少し行くと、小さな教会と広場があったので、そこで駐車して朝食を取った。
 食べる量は足りているのだろうか? と少佐を横目で見ると、彼女は既に食事を終えて、コーヒーを飲みながら考え込んでいた。
 テオの携帯にメールが着信した。見るとロホからだった。

ーー起きていますか?

とあった。テオは返信した。

ーー起きて朝飯を食ったところだ。

 その返事は来なかった。と思ったら、少佐の携帯に電話がかかって来た。少佐が画面を見て、電話に出た。

「ブエノス・ディアス。」

と彼女が機嫌良く出たので、ロホからだとわかった。彼女とロホは暫く先住民の言葉で話していた。テオに内緒にしなければならない内容なのかと思っていると、少佐がスペイン語で言った。

「では、800にグラダ市警東署の前で。」

 そして電話を終えて、テオを振り返った。

「これから土曜日の軍事訓練をします。」
「え?」
「今日は諜報活動の練習です。」

 つまり、捜査の応援が加わると言うことだ。

「何人が参加するんだ?」
「今日は2人です。ロホとアスルのみ。学生達は休ませます。今日で終わる訓練とは限りませんから。」
「さっきの電話はその相談?」
「スィ。」

 少佐はちょっと遠くを見る様な目をした。

「今日からカルロが指導師の試しに入ります。デネロスとギャラガは官舎組ですから、”見送り”の儀式をします。大層なものではありません。指導師の試しを受ける人を廊下に並んで見送るだけです。」
「君もやった? その、試しとか見送りとか・・・」
「スィ。ロホも経験しています。シーロも済ませています。少佐以上の階級は全員経験済みですし、ロホの様な優秀な人は中尉でも受けられます。」
「アスルは? 彼も経験していそうだが・・・」

 少佐がクスッと笑った。

「住所不定だったので、受けさせてもらえなかったのです。でも貴方の家で下宿を始めたので、もう少しすればお声がかかるでしょうね。」

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