海図を管理しているのは沿岸警備隊だったので、警察署長ではなく憲兵隊が連絡を入れた。テオはふと疑問に感じた。何故今回の遭難者の調査を沿岸警備隊が行わないのだろう、と。セルバ人達は何も疑問を感じないのか、それから半時間無駄話をして沿岸警備隊がファックスを送ってくるのを待った。主に次のサッカーのワールドカップの話題だったので、テオとケツァル少佐はテーブルの上の残りの備品をチェックした。
「非常食が2つだけありましたが、北米で手に入りやすいレトルト食品ですね。」
とケツァル少佐が言った。
「リオグランデから南で買えるとしたら、メキシコあたりでしょうか。 私個人の印象では、これは北米から来た様に思えます。こんなに用心深く身元を隠した避難用具を見たのは初めてです。」
「俺もそう思う。」
とテオは嫌な予感を抱きながら言った。
「これはスパイ活動をしていた船のものじゃないかな。犯罪組織がここまで身元を隠すとも思えない。」
ロペス少佐が振り向いたので、彼は言い足した。
「どこの国がどの国を探っていたのかは、わからない。潮流を見ないとね。」
ピーッとアラームが鳴り、警察署のファックスが数枚の紙を吐き出した。大統領警護隊と憲兵隊からの合同要請なので沿岸警備隊が超特急でこの過去3日間のロカ・ブランカを含む東海岸沖の潮流の様子を描いた図を送信してきた。
大統領警護隊も憲兵隊も陸軍がメインなので、海図の読み取りは苦手だ。警察署長が初めて水を得た魚の様に図面を解読しながら潮流の向きを説明した。
「我が国の東を流れる潮流はメキシコ湾流で、南から北へ北上しています。まず逆流はありません。漂流物は南の方からやって来ます。今回の救命筏も南から流されて来たと思われます。何処の国の船のものかわかりませんが、セルバより南で遭難して、暴風で海岸に押し寄せられたのでしょう。」
「海流の速さと風向き、風速から船舶が遭難したと思われる海域はわかりますか?」
テオの質問に署長が首を振った。
「無理でしょう。穏やかな状態の海で遭難したのでしたら計算も出来ますが、あの暴風雨の中ではね。生存者が回復したら訊いて見る方が良いでしょうな。」
警察署を出ると、大統領警護隊と憲兵隊はそれぞれの車に乗ってグラダ・シティ南部の市営病院に向かった。そこに死者2名と生存者1名がいた。
0 件のコメント:
コメントを投稿