2021/12/18

第4部 悩み多き神々     6

  アスルはソファの上に横になるとすぐに眠ってしまった。テオはデネロスとステファンと料理を摘みながら小一時間ほど世間話をして過ごした。デネロスはオクタカス遺跡の情報を知りたがり、偶然テオとステファンはそこで知り合ったので、どちらも遺跡の話を彼女に語って聞かせることが出来た。

「美術品と言う観点からすれば、そんなに高価な出土品はないが、歴史マニアやメソアメリカ文明マニアが欲しがるような石像や土器は多いかなぁ。」

とステファンが先日捕まえた遺跡荒らしを思い出しながら呟いた。

「年代が10世紀以降で新しいから、保存状態も悪くない。だから、盗掘者は素人のコレクターにもっと古い年代であるかのように告げて高値で売りつけるんだ。」
「監視に重点を置く場所はありますか?」
「やっぱり支配階級の住居と思われる場所だな。出て来る物が多い。」

 テオは2年前の見学で思い出した壁画を指摘した。

「その金持ちらしき住居跡に壁画があったんだ。色が残っていて、学者達が喜んでいた。剥がして修復したいと言っていたが、それは許可が出るのか?」
「ノ。」

とステファンとデネロスが声を合わせて否定した。

「修復するかしないかは、セルバ国立民族博物館が決めます。申請が通るまで、私達はその壁画に手を加えられないよう見張ります。」
「すると、ムリリョ博士次第?」
「博物館とグラダ大学の考古学者達が相談して決めるのです。壁画の傷み具合を調査しないとね。」
「国外持ち出しは禁止です。これはギリシアでもペルーでも、古代遺跡を管理する国では常識です。どうしてもセルバの技術では無理って言う場合のみ、外国の機関に依頼します。」
「そう言うことは、滅多にありませんがね。」

 遺跡の話をしている時のカルロ・ステファンは本当に楽しそうだ。カルロ、とテオは言った。

「遊撃班に所属したままで、遺跡関係の任務に就くことは出来ないのかなぁ?」
「遺跡関係の任務?」
「だから、チンケな遺跡泥棒相手じゃなく、大掛かりな盗掘と密売組織の捜査とか・・・ほら、ロザナ・ロハスの組織みたいなのを専門に扱う任務とか、さ。」

 するとデネロスがムッとして反論した。

「私達、チンケな泥棒ばかり追いかけている訳じゃないですよ。大掛かりな組織犯罪も捜査してます。」

 ステファンが苦笑しながら後輩の肩を持った。

「その通り、貴方が言ったことは、少佐のお仕事なんです。」
「そうか・・・」

 ステファンが文化保護担当部に戻って来られる道を見つけた様な気がしていたテオはガッカリした。

「遊撃班は色々な分野へ助っ人に行く仕事なので、勉強することも多いです。」

と大尉が言った。気がつくと、彼は海老ばかり食べていた。

「私は取り敢えず体験出来ることは全部体験したいと思っています。まだ上の階級に昇級するための覚悟が足りないと、先日副司令官からも姉からも言われましたし。」

 ケツァル少佐のことをサラリと「姉」と呼んだ。テオは気が付いたが、気づかないふりをした。

「私が少佐以上の階級に上がれば、必然的にケツァル少佐と同じ部署に配属される可能性は無くなります。一つの部署に指揮官が2人いることはありませんからね。だから・・・」

 ステファンはソファの上のアスルを見た。

「彼はロホと同じ部署にいたいが為に少尉のままでいる。ロホは少佐の部下のままでいたいから、中尉のままでいたい。文化保護担当部の男連中は甘えん坊ばかりです。」
「アンドレは上に行きますよ、きっと。」

とデネロスが言った。こちらは肉料理ばかり手をつけていたが、やっとデザートに入ったところだ。

「でも彼は色々ハンディがあるから、年数がかかると思います。だから彼は安心して修行に取り組んでいるのです。孫ができるまでに少佐になるんだって言ってました。」

 テオとステファンは思わず笑ってしまった。

「本当にアイツはそんなこと言ったのか?」
「何年かかるんだ? 20年もかけて少佐になるのか?」

 

 

0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器...