ロジャー・ウィッシャーは話を続けた。
「僕のC I Aの活動は現地の社会情勢の調査でしたから、あまり危険なことはしていません。映画に出てくる様なスパイ活動じゃないですよ。毎日新聞やテレビのニュースを本国に送信するだけでした。まぁ、政情が不安定な国ではちょっとやばいこともありましたがね。でも僕の本当の目的は父親探しでした。父が行方不明になった前後のそれぞれの国の、アメリカ人の入国記録を調べていたんです。だが、父は手紙を出したガテマラを最後に足跡を消していました。僕はガテマラ国内をしらみ潰しに探したかったのですが、ニカラグアへ派遣された。そこでかなり危険な目に遭いまして・・・何とか乗り切った後で辞めました。普通のビジネスマンに戻ったんです。」
「それなのに、ガテマラではなくセルバへ来た理由は?」
ウィッシャーは少し躊躇った。
「父の最後の手紙の内容が奇妙だったと言いましたね。父は『黄金の都を見つけるかも知れない』と書いていたのです。」
テオは思わず「ハァ?」と声を出してしまった。
「黄金の都? エル・ドラドですか?」
「そうです。馬鹿みたいでしょう?」
「エル・ドラドを探すなら、アンデスへ行かないと・・・」
「僕もそう思ったのですが、父はセルバの伝説を聞いて、エル・ドラドの存在を確信したと書いていました。」
「セルバの伝説?」
「何でも、地の底に黄金の湖があって、宝石でできた魚が飾られている、と言う・・・」
テオはドキリとした。それは、「太陽の野に星の鯨が眠っている」聖地のことではないのか? ”ヴェルデ・シエロ”の英雄達が亡くなった後、のんびり悠久の時を過ごしている地下の世界・・・。
ウィッシャーはテオの微妙な顔色の変化に目敏く気づいた。
「何かご存知ですか?」
テオは顔色を読まれたと悟った。だから言った。
「それは、セルバでは禁忌の文句です。『太陽の野に銀の鯨が眠っている』と言うフレーズで、犯罪組織などが敵対するグループに皆殺しの宣戦布告をする時に使うものです。」
勿論、それは事実だった。何時の時代にか、「星の」が「銀の」と誤訳されて現代のセルバ人に伝わっているのだ。現代のセルバ人はただの呪いの言葉だと信じて疑わない。原文が地下深くに築かれた神殿に古代文字で刻まれた文言だと知らないのだ。
「太陽は黄金に光り輝いているから、黄金と誤解され、銀色の鯨は光っている宝石と取り違えられたんです。エル・ドラド伝説を求める人々が無理矢理な解釈をしたのでしょう。第一、セルバにはエル・ドラド伝説などありませんし、西部のオルガ・グランデに金鉱がありますが、大部分はアンゲルス鉱石と言う企業が所有しています。勝手に金を掘ると、連中に袋叩きにされます。」
一気に喋ってから、テオは尋ねた。
「お父さんはその嘘の情報を信じてセルバに入ったと、貴方は考えているのですか?」
「それしか、今は思いつかないのです。メキシコ、ベリーズ、コスタリカ、エルサルバドル、ガテマラ、ニカラグア、パナマと探しましたが、父の手掛りは何処にもありませんでした。最後が、一番アメリカ人の入国が少ないセルバだったのです。ここで父の消息をつかめなければ・・・」
ウィッシャーは溜め息をついた。
「コロンビアかボリビアに行ってみます。」
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