15分程でステファン大尉がオフィスに出て来た。僅か15分だったのに、彼はげっそりヤツれて見えた。テオとガルソン大尉が思わず彼を見つめると、彼は囁く様な低い声で言った。
「落ち着いてくれました。呪いを祓ってみましたが、悲しみまで癒すことは出来ません。彼女を宿舎で休ませた方が良いかと思います。」
ガルソン大尉が彼を見つめて、そして首を傾げた。
「呪いと言ったか?」
「スィ。」
「中佐は誰かの気の爆裂か、”操心”の邪悪な気で傷つけられていたと言うことなのか?」
ステファン大尉は小さく頷いた。
「恐らく、何が起きたか貴方に告げたくても呪いの力で話せなかったのでしょう。酷く衰弱されています。休ませてから、話を聞きましょう。」
ガルソン大尉も頷いた。そして携帯電話を取り出すと、フレータ少尉を呼んだ。
テオは2人の大尉のどちらへともなく、尋ねた。
「中佐はブーカ族だと聞いたが、ブーカ族を苦しませることが出来る力を出せるのは、やっぱりブーカ族なのか?」
ブーカ族のガルソン大尉が彼を振り返った。
「対等に対決すれば、そう言うことになります。しかし、不意打ちや事故の場合はどの部族が優位と言うことはありません。一番力が小さなグワマナ族でも、不意打ちでグラダを倒せる可能性はあります。」
「それじゃ・・・」
テオはアスクラカンと言う街をバスの通過地点としか認識していないが、最近ちょっとした事件で関わった。ステファン大尉はその事件で現地に行ったのだ。
「サスコシ族と中佐の間で何らかのトラブルがあった可能性もありますね?」
ステファン大尉がハッとした表情になり、ガルソン大尉も、「サスコシがいたな」と呟いた。アスクラカンの街周辺にはサスコシ族が多く住んでいる。彼等の領地と言うことではないが、街の経済や政治に影響力を持つ富裕層にサスコシ族の血筋の人々が多いのだ。そしてテオがそのことを頭に置いているのには理由があった。アスクラカンのサスコシ族の中には、家族ぐるみで純血至上主義者と言う家系があるのだ。自分達の家族のメンバーが他部族や異人種との間に作った子供を認めないと言う人々だ。最悪の場合、その生存権さえ認めないと言う極右もいた。勿論、全てのサスコシ族がそうなのではない。平和で広い心の人々の方が多い。ただ、ミックスの”ヴェルデ・シエロ”が純血至上主義者の家族が所有する地所に足を踏み入れると、安全の保障がないと言われている。強力な超能力を持っているグラダ族のミックスであるステファン大尉でさえ、平和主義者のサスコシ族から、特定の家族に近づくなと忠告を与えられたのだ。
「アンゲルス鉱石の産業医を追いかけて行ったキロス中佐がサスコシ族とトラブルになったとしたら、その原因をまた考えなければなりませんが、強い力を持っていると言われる中佐がダメージを受ける何かがあったのは間違いありません。」
ガルソン大尉はテオの言葉を聞いて、ステファン大尉に確認した。
「中佐がかけられた呪いは祓えたのですな?」
「スィ。」
「では中佐が休まれて落ち着かれたら話を聞ける?」
「その筈です。」
その時、オフィスにフレータ少尉が入って来た。
「遅くなりました。申し訳ありません。」
昼食の支度を一人でしていた少尉は遅れた言い訳はしなかった。ガルソン大尉が、彼女が不在の間にオフィスであった出来事を彼女に”心話”で伝えた。フレータ少尉が少し動揺したのか、空気が揺らいだ感じがした。彼女はキロス中佐を「女の家」に連れて行くために指揮官事務室に入った。
パエス中尉が戻って来た。彼にもガルソン大尉が情報を与えた。中尉が溜め息をついた。
「宿舎はすぐそこだが、車で中佐をお連れした方が良いでしょう。」
と彼は言い、外へ出て行った。
フレータ少尉に支えられる様にしてキロス中佐が出て来た。中佐は両手で顔を覆っていた。泣いている様にも見えた。2人の女性はオフィスを横切り、外へ出て行った。テオは中佐の足取りが弱いものの足がしっかり前に出ているのを見て、ステファンのお祓いは効いたのだと安心した。
戸口で女性達とすれ違ったラバル少尉が入って来た。
「中佐はどうなさったのだ?」
それでガルソン大尉が再び彼にも情報を分けた。ラバル少尉の顔が曇った。
「サスコシが関わっているのか?」
彼は外へ顔を向けた。テオには見えなかったが、車のドアが閉まる音が聞こえた。その直後だった。
テオと太平洋警備室のオフィスにいた大統領警護隊の隊員達は爆発音を聞いた。
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