2022/01/23

第5部 西の海     16

  昼前に診療所に戻ると、待合室に患者はいなくて、イサベル・ガルドスと看護師1人が世間話をしていた。聞けばセンディーノ医師ともう一人の看護師は最後の患者と診察室にいると言う。テオが採取した人数を尋ねると、20代の女性1人、30代の男女1人ずつ、60代の女性2人だった。テオは人数を合計して、言った。

「目標人数には足りていないが、大臣が俺の目標人数を指定した訳じゃない。看護師の分も入れて全部で14人だ。遺伝子比較には十分だと思うが、どうだろう?」
「十分だと思います。」

とカタラーニが応じたが、ちょっぴり残念そうだ。この旅行がすぐに終わってしまう予感がして寂しいのだ。それはガルドスも同様で、

「あっけなく終わってしまいましたね。」

と言った。すると看護師が言った。

「それなら村民全員のサンプルを採ればどうです?」
「出来ないことはないが・・・」
「帰りたくないのでしょう?」

 看護師が悪戯っ子の様な笑を浮かべた。

「アカチャ族は港が出来る前から、海から来る客に慣れています。だから貴方達が村の中を歩き回って出会う人に検査協力を求めても騒いだりしませんよ。」

 テオは彼女を眺めた。純血種の先住民の顔をしてるが、もしかすると・・・。彼は尋ねた。

「昔も海から客が来たと仰いましたね? すると村の人でその他所から来た人と結婚したり、子供を産んだりした人もいたのですか?」
「いたでしょうね。」

と看護師はサラリと言った。

「白人やアフリカ系でなければどこの部族と混ざり合っているか、わかりませんもの。」
「そうか!」

 テオは手を打った。カタラーニとガルドスが不思議そうに見たので、彼は説明した。

「海沿いをやって来たり、船で訪れた人との間に生まれたアカチャ族の住民もいたんだ。その人の子孫がまだ村にいる可能性だってある。つまり、東のアケチャ族とここのアカチャ族に遺伝子が違う可能性も十分あるってことだよ。」
「そうなんだ!」

 ガルドスも目を輝かせた。

「アカチャ族が独立した一つの部族だと言う証明を探すのですね!」

 看護師は何故グラダ大学の人々が喜んでいるのかわからず、ぽかんとして見ていた。

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第11部  紅い水晶     19

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