2022/01/31

第5部 山へ向かう街     4

  大統領警護隊本部遊撃班は恐らくホセ・ラバル少尉を尋問し、またカロリス・キロス中佐からも事情聴取したことだろう。テオは隊員ではないし、”ヴェルデ・シエロ”でもない。サン・セレスト村で起きた事件に多少関与したが、だからと言って大統領警護隊が彼に捜査結果を教えてくれる訳が無い。ケツァル少佐も同じく捜査結果を知りたい様子だったが、彼女は己が事件の部外者であることを心得ていたので、本部に情報を求めることをしなかった。
 テオは太平洋警備室のホセ・ガルソン大尉、ルカ・パエス中尉、そしてブリサ・フレータ少尉がこの先どうなるのかも気になった。ガルソン大尉は3年間本部に嘘を通してきた。指揮官のキロス中佐が元気で勤務していると動画を細工して、毎日定時報告として送信していたのだ。彼は転属を覚悟していた。降格もありうるし、もしかすると不名誉除隊となるかも知れない。それなら良いが、罪に問われて逮捕でもされたら・・・。 パエス中尉とフレータ少尉も共犯だ。だが3人はキロス中佐が元通り元気になる日が来ると信じて、彼女に仕えたのだ。

「キロス中佐に面会出来ないだろうか?」

 テオの提案にケツァル少佐は首を傾げた。

「彼女は今厳重な警護の元で治療を受けているでしょう。家族の面会も難しいと思います。」
「中佐に家族がいるのかい?」

 と訊いてから、テオは遊撃班のファビオ・キロス中尉を思い出した。少佐はキロス中佐と親しくないので、と言い訳した。

「彼女の家族のことは知りません。」
「遊撃班にファビオ・キロス中尉がいるが・・・」

 するとロホが言った。

「キロス家は代々軍人を出している家系ですから、大統領警護隊に何人のキロスがいると思いますか?」
「そんなにいるのか?」
「私が知っているだけでも3人います。全員従兄弟同士ですが。」
「それじゃ、カロリスは叔母さんかも知れないな。」

  テオはキロス中佐が本部の事情聴取を受ける前に会いたかった。本部から事件の真相を口止めされる前に。そしてガルソン大尉達の処分が決定する前に。彼女の口から真相を聞かせてもらい、部下達の処分が軽く済むよう助けてやってくれと頼みたかった。
 ふとケツァル少佐が顔を上げて、テオに言った。

「フレータ少尉なら面会させてもらえるかも知れませんね。」


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第11部  紅い水晶     18

  ディエゴ・トーレスの顔は蒼白で生気がなかった。ケツァル少佐とロホは暫く彼の手から転がり落ちた紅い水晶のような物を見ていたが、やがてどちらが先ともなく我に帰った。少佐がギャラガを呼んだ。アンドレ・ギャラガ少尉が階段を駆け上がって来た。 「アンドレ、階下に誰かいましたか?」 「ノ...