2022/02/01

第5部 山へ向かう街     5

  ロホはオルガ・グランデへ通じる”入り口”を探して夜のグラダ・シティを車で流した。金曜日の夜の大都会は遅く迄賑やかだった。偶に次元の渦を見かけたが、人の目があって使えなかった。最後に、意外な場所で”入り口”を見つけて、ケツァル少佐に電話した。少佐はテオをマカレオ通りの彼の家に送り、入浴させて休ませようとしていた。

「日が昇ると人目に着くので、夜の間に使った方が良いかも知れません。」

とロホは言った。少佐は、アスルが戻ったらテオを連れてそちらへ行く、と言った。

ーー貴方はアパートに帰りなさい。
「私は仲間外れですか?」

 ロホが不満そうに言うと、少佐は言った。

ーー貴方は明日、アスクラカンに行ってもらいます。バルセルと言う医師が3年前に、あの街に何をしに行ったのか、調べて下さい。
「軍事訓練ですか?」
ーーそう言うことにしましょう。
「では、アスルとアンドレはどうします?」
ーーアスルは私から指示を出します。 アンドレは貴方が連れて行きなさい。純血至上主義者に近づく時の心得を教えてやりなさい。彼の人生で決して避けて通れないことですから。
「承知しました。あいつは打たれ強いですから、タイマンなら負けないと思いますがね。」

 少佐は電話の向こうで笑って、通話を終えた。
 ロホは車中で次にアンドレ・ギャラガにメールを送った。時間があれば電話をくれと送ると、彼がアパートに帰り着いた時に電話がかかって来た。

ーー通話場所が空くのを待っていたので遅くなりました。明日の軍事訓練の件でしょうか?

 流石に文化保護担当部だ。金曜日の夜の連絡が何を意味するのか承知している。ロホは心の中で笑った。

「スィ。明日、君は私と共にアスクラカンへ行く。0700に本部前で君を拾うから待っていてくれ。」
ーー承知しました。軍服は必要ですか?
「私服で良い。だがI Dは忘れるな。」
ーー大丈夫です、絶対に忘れません。

 ギャラガにとって大統領警護隊が人生の全てだ。ロホはふと思った。彼をいつか軍の呪縛から解放して自由に伸び伸びと生きる道を歩かせたい、と。

「アスクラカンには、厄介な思想を持った家系がいるからな、用心しろよ。」
ーーああ、例のサスコシの・・・

 ギャラガはビアンカ・オルトの事件を忘れていなかった。彼自身はあの件に殆ど関わらなかったのだが、純血種でないと言う理由で腹違いの弟の存在を抹消しようとした女の考え方は衝撃だったのだ。己の血筋がはっきりしないミックスのギャラガは、純血種が血筋を守ろうとする考え方が理解出来ない。

ーーミックスだって立派に”シエロ”だって見せてやります。
「それなら、早く”操心”と”連結”の違いをマスターしろよ。」

 チクリと先輩らしく注意してやると、ギャラガは電話の向こうで、ククっと苦笑した。

ーーでは、失礼して、明日遅刻しないように早く寝ます。
「おやすみ。」
ーーおやすみなさい。

 電話を終えて、ロホは実家にまだ居座っている2人の弟を思い出した。あいつらもアンドレを見習って武者修行に出れば良いのに、と6人兄弟の4男は思った。


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