「今から3年程前のことです。」
とガルソン大尉が語り始めた。
「港で働いているアカチャ族の現場監督にお会いになりましたか?」
「スィ。ホセ・バルタサール氏ですね?」
「彼がラバル少尉にある情報を伝えました。アンゲルス鉱石、当時はエンジェル鉱石と言いましたが、オルガ・グランデ最大の金鉱山を所有している鉱山会社が従業員の健康診断を行いました。」
テオはドキリとした。それは彼が「7438・F・24・セルバ」とタグ付けされた血液サンプルの存在を知ることになった健康診断ではないのか?
ガルソンが続けた。
「バルタサールはエンジェル鉱石がその健康診断で採取した血液をアメリカの会社に売却しているらしいと我々に伝えたのです。」
「内部告発ですか。」
「スィ。そのアメリカの会社が何者なのか我々にはわかりませんでした。しかしアメリカ先住民の血液を研究している製薬会社の話は聞いたことがあります。ワクチンの研究などに長い間外部との婚姻が行われたことがない人間の遺伝子を分析して使うのだと・・・私達には意味がよくわかりませんが。」
「まぁ、俺は理解出来ますが、説明しても一般の人にはわからないでしょう。それにキロス中佐の病気と遺伝子が関係しているとは思えませんが?」
「中佐は遺伝子の分析と言う言葉に懸念を抱かれました。」
「従業員に”ヴェルデ・シエロ”の血筋を持つ人がいると、アメリカの会社にあなた方の存在を知られてしまうと心配されたのではありませんか?」
ガルソンとパエスがギクリとした表情でテオを見た。だからテオは率直に語ることにした。
「ステファン大尉や本部からの噂話で俺のことを少しはご存じかと思いますが、俺はその先住民の血液をエンジェル鉱石から買っていた会社、本当は政府の研究機関で働いていた科学者でした。」
「では、貴方がぶっ潰して逃げた研究所と言うのは・・・」
テオは苦笑した。
「ぶっ潰しはしません。ただ、ケツァル少佐がデータを消去してコンピュータの中身をメチャクチャにしただけです。その研究所は超能力者の開発をしていたのです。軍で使えるように兵士に超能力者の遺伝子を注射で与えるようなものを。だから俺達はセルバ人のデータも彼等が北米で集めたデータも全部消して記憶媒体も復元不可能な状態に破壊したのです。」
「そうでしたか。だからグラダ・シティの本部は貴方を特別な存在として保護しているのですな。」
ガルソンの目付きが柔らかくなった。パエス中尉も少し肩の力を抜いた様子だった。
テオは逆に胸の奥に不安を感じながら、ガルソンに話の先を促した。
「キロス中佐はエンジェル鉱石に何か働きかけたのですか?」
「私達は彼女が何をなさったのか知らされていません。中佐は一人でオルガ・グランデのエンジェル鉱石へ出かけられました。血液の売却先を探りに行かれたのでしょう。
鉱山会社の社長ミカエル・アンゲルスはアメリカ人から金を受け取った後のことは知らないと言ったそうです。それで中佐はアメリカ人を会社に紹介した医者を探しました。」
「医者?」
「健康診断を指導した医者です。オルガ・グランデで大きな診療所を経営している男でした。彼は中佐が探し当てた時、アスクラカンにいました。それで中佐はアスクラカンへ出かけられた。」
テオはドキドキした。何故だかわからないが、凄く嫌な予感がした。
「中佐は10日後に帰って来られました。疲れ果てて、一度に老け込んだ感じで・・・。」
「大罪を犯したのだ。」
とパエス中尉が消えそうな低い声で囁いた。ガルソン大尉は黙って首を振った。
「誰も見た者はいない。誰にも何が起きたのかわからん。」
「何か起きたのですか?」
テオが尋ねても、彼等は黙っていた。だから、テオは勇気を振り絞って言った。
「エル・ティティから少し山を登った辺りのハイウェイから乗合長期距離バスが転落したんじゃないですか?」
0 件のコメント:
コメントを投稿