2022/01/29

第5部 山の向こう     13

  ラバル少尉は目隠しされてキロス中佐の部屋に入れられた。彼がパエス中尉を縛り付けた椅子に彼自身が縛り付けられた。
 テオはまだ状況がよく理解出来なかったので、ガルソン大尉とステファン大尉が何か説明してくれないかと待った。セルバ人はこんな場合もそんなに慌てない。ステファン大尉が厨房棟からフレータ少尉が負傷する直前まで準備していた昼食を運んで来て、遅い食事を仲間に振る舞った。超能力を使った”ヴェルデ・シエロ”は空腹になる。特に気の爆裂や結界などの大きなエネルギーが必要な力を使用した後は殊更だ。
 ガルソン大尉は猛然と豚肉の煮込み料理を口に運んだ。パエス中尉はステファン大尉にもらった氷を右目の下に当てながらも、食欲はあって、しっかり食べた。テオもお相伴に預かった。大統領警護隊の食事は満足出来る出来具合だった。ステファン大尉も食べて、フレータ少尉が煮込み料理を食べられなかったことを残念がった。彼女の得意料理だったのだ。
 空腹が解消されるとガルソン大尉もパエス中尉も元気を取り戻した。そう判断したので、テオは尋ねた。

「どうして犯人がラバル少尉だとわかったんです?」

 ガルソン大尉が簡単だと言いたげに答えた。

「パエス中尉の怪我が目のそばだったからです。中尉が車を爆破したのだったら、目を傷つけるヘマはしない。我々にとって目は大事な武器ですから。ラバルは中尉を介抱するふりをして、彼を拘束し、私達を彼に近づけようとしなかった。」
「では、中尉が『中佐は死んだか?』と尋ねたと言うのは・・・」
「ラバルの嘘です。」
「しかし、すぐにバレるでしょう?」
「ラバルは中尉を中佐の部屋に監禁した後で、”操心”で従わせようとしたのです。しかし、部屋を離れて私に中尉を拘束した報告をしている間に、パエス中尉が身を守る為に部屋に結界を張ってしまった。中尉はブーカ族だから、マスケゴとカイナのミックスのラバルには彼の結界を通ることが出来ません。仕方なくラバルは部屋の外に座り、番をしているふりをして、結界が弱まるのを待っていたのです。」
「貴方達はラバルの嘘に騙されたふりをしていたのですか?」
「キロス中佐とフレータ少尉の救助が最優先でした。それにあの時は流石に私も動転してしまい、爆発の原因究明をステファンに託すしかなかった。ステファンはテロかそうでないのか確認して、陸軍兵や村人達の安全を優先しなければなりません。我々は守護者ですから。」

 ステファン大尉とパエス中尉が小さく頷いた。パエス中尉が申し訳なさそうに言った。

「爆発の後でラバルがそばに来た時、助けてくれるのだと思いました。あの時は目が痛くて開けていられなかった。だからラバルが私の顔に包帯を巻いた時も疑わなかったのです。手を後ろへ回された時、やっとおかしいと気がつきましたが、遅かった。大尉達に声をかけたのですが、皆外にいて声が届きませんでした。このままではラバルに殺されるかも知れないと思い、結界を張りました。目は見えませんでしたが、部屋の大きさと形状がわかっています。結界を小さく張ればラバルが私に近づけない強さの壁を築けます。」

 ステファン大尉が彼に尋ねた。

「ラバルがジープに向けて放った気を感じませんでしたか?」
「感じたと思いますが、ショックで覚えていません。私は中佐を後部席に座らせ、ドアを閉めました。運転席にフレータが座ってドアを閉じた直後にやられたのです。エンジンをかける直前だった筈です。だからラバルはエンジンに向けて気の爆裂を放ったのでしょう。気がついた時は私は地面に倒れていました。負傷が目の下だけで済んだのは、きっと中佐が守って下さったのだと信じています。」
「キロス中佐は守護者の鑑だな。」

とテオは呟いた。

「彼女は貴方とフレータ少尉を守った為に彼女自身が逃げるタイミングを失ったのだろう。」
「そう思います。」

 ガルソン大尉がステファン大尉に顔を向けた。

「君から本部へ連絡してくれないか。私がもっと早く中佐の異常を報告していればこんな事態にならなかった。ラバルの取り調べも本部に任せなければならない。我々は当事者になってしまったから。」

 

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