2022/02/10

第5部 山へ向かう街     21

 「大統領警護隊に私達の仲を知られてしまった以上、ホセは不名誉除隊になるのでしょうね?」

とディンゴ・パジェが心配した。ロホはホセ・ラバル少尉がキロス中佐の暗殺を図った上に同僚2人も負傷させ、逮捕されたことを彼に伝えなかった。上官暗殺未遂は反逆罪だ。司令部がキロス中佐の言い分を聞いて、どう判断するのかわからないが、無罪になることは絶対にない。
 ディンゴ・パジェは音信がふっつりと途絶えた恋人の安否を気遣いながら、これから生きていくのだろう。大統領警護隊は身内の不祥事を決して世間に公表しないのだ。

「貴方も人間を気の爆裂で負傷させたのだ。今まで貴方の親が隠していたことが、今我々の知るところとなった。貴方は恋人のことより貴方自身のことを心配する必要がある。」

とロホは言った。
 ディンゴが真っ青な顔になって彼を見た。

「私を逮捕なさるのですか?」
「そうしたいが・・・」

 ロホは肩をすくめた。

「今日は非公式の任務で来ている。貴方の証言を大統領警護隊に報告するが、貴方の処遇を決めるのは上層部だ。」
「では、私は・・・」
「悪いことは言わない。今日これからでもサスコシ族の長老に貴方がしたことを打ち明けろ。もし少しでも貴方の言い分が通るとしたら、それは長老の裁決次第だ。」
「私を庇った父も同罪なのですか?」
「それも長老の考え次第だ。あなた方が日頃はどんな振る舞いをして生きているのか、私は知らない。長老達が貴方と貴方の家族に対してどんな心象を抱いているかも知らない。しかし、隠したり、逃げたりすれば、確実に彼等を怒らせる。」

 それは、”砂の民”に追われることを意味した。
 純血至上主義者の家系に生まれ育ったディンゴ・パジェは、ミックスのギャラガをチラリと見た。長老会は”出来損ない”も一族と認めている。”出来損ない”に対して数々の酷い仕打ちをする人々として認識されている純血至上主義者達は長老会にもいるが、少数派だ。

「私は・・・異端だが、”出来損ない”を虐げたことはない。」

とディンゴは囁いた。ギャラガは聞かなかったふりをした。”出来損ない”と言う言葉を使うこと自体が差別だ。

「時間をとらせて悪かった。」

とロホが言った。そしてギャラガを促し、アパートから出た。
 2人で市街地の中心部に向かって歩いて行った。まだ日が高かったが、なんだか疲れた。

「腹が減ったな。」

とロホが呟いた。ギャラガが頷いた。

「どこかで爽やかなピアノ演奏を聞きながら食事が出来れば良いですがね・・・」


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