食堂を出て陸軍病院の前に来ると、病院の敷地内に搬送用のバンが駐車しているのが見えた。バンの前後にジープが1台ずついるのを見て、ケツァル少佐が「先を越された」と呟いた。
「内務調査班か?」
「恐らく、キロス中佐を陸軍基地に運んで、そこから空軍機でグラダ・シティに護送するのです。」
「事情聴取は終わったのかな?」
「多分、私が得たのと同程度の情報を中佐は伝えたでしょう。内部調査班は馬鹿ではありません。中佐がまだ何か隠していると考え、本部で尋問するのです。司令部は指導師の集団ですから、どんなに中佐が頑固に情報を隠しても打破されてしまいます。」
「ダメージを受けて記憶が曖昧になっていた時間のものも、引き出されるのか?」
「脳のどこかに記憶が残っていれば全て・・・心を盗まれるのと同じ状態です。」
司令部はキロス中佐から真相を引き出せるだろう。しかしテオに、3年前バスの中で何が起きたか教えてくれない。
テオはやるせない気分になった。自分が真相を知らなければ37人の犠牲者が浮かばれない、そんな気持ちだった。
「司令部は君にも教えてくれないのか?」
「私は完全な部外者ですから。」
少佐も悔しそうだ。
「俺は部外者じゃない。3年前、何が起きたか知りたいんだ。」
テオは歩き出した。病院の門をくぐった。少佐が黙ってついて来た。行くなとは言わない。病院は面会を受け付ける時間帯だった。ジープと搬送車の横を通り、正面入り口から建物の中に入った。車のそばには警護の兵士が立っていた。
内部は普通の病院と変わらない。面会に来た家族や友人達とソファに座って話をしている入院患者や、面会者に付き添われて散歩をしている患者、スタッフと話をしている面会者。
エレベーターの扉が開いて、ストレッチャーに乗せられた患者が兵士に囲まれて出て来た。看護士が点滴の装備を支えてくっついていた。包帯に包まれたキロス中佐の顔ははっきりと見えなかった。思わず近づこうとしたテオの腕を、少佐が後ろから掴んで引き止めた。
「中佐は麻酔で眠っています。」
と彼女が囁いた。
「一族の人間を護送する時の常識です。」
キロス中佐は危険人物と見做されている。ダメージを受けて3年間夢と現を行き来していた彼女の精神状態を司令部は信用していない。
ストレッチャーの後ろから内部調査班の2人が現れた。調査班の少佐がテオとケツァル少佐に気がついて顔を向けた。ケツァル少佐が彼に視線を合わせた。
ストレッチャーと兵士達と内部調査班は外へ出て行った。
グッと彼等を睨みつけたテオに、後ろから少佐が囁いた。
「内部調査班に、貴方がバス事故の生き残りで、事故原因の真相を知る権利がある、と伝えておきました。」
「向こうは何て?」
「上層部に伝えておく、と。」
テオはアスルの十八番の「けっ」と言いたくなった。
少佐はエレベーターを見た。
「フレータ少尉はまだここにいるようですね。」
「彼女は本部が知りたがるような情報を持っていないからだろう。」
「もう一度彼女に会ってみませんか?」
彼女は既に階段に向かって歩き始めていた。テオは搬送車にストレッチャーが乗せられるのを見ていたので、気がつくと既に彼女は階段を上りかけていた。急いで追いかけた。
「フレータに今更何を訊くんだ?」
「何も得ることはないかも知れませんが、彼女はカルロが着任する迄、中佐とラバルと3人で毎日食事をしていたのでしょう?」
あっとテオは思った。どうして今迄それを思い出さなかったのだろう。フレータ少尉はキロス中佐とラバル少尉の関係を知っていたのかも知れないのだ。
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